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縁の本棚  作者: 雪縁
303/306

本日の一冊 「あした、弁当を作る」

「あした、弁当を作る」

          ひこ 田中・作【講談社】


 家族のお弁当作りを卒業して半年になる。

 長男次男の高校時代の三年間と、公務員の夫の数十年間。社宅に住んでいる間はいちおう専業主婦だったけれど、お弁当作りに関しては優等生ではなかった。冷凍食品はふんだんに使い、すぐにサボりたがり、最近、若い人たちが、ユーチューブなどで、栄養バランスのとれた、時短のお弁当を紹介しているのを見たりすると、あの頃にこんな情報欲しかったなといまさらながら悔やんでいる。それでも息子たちが高校生の頃は、どんなお弁当でもあるにこしたことはないので、結構一生懸命こしらえたと思う。そして、息子たちからお弁当の中身を褒められると、モチベーションが上がるあたりは、母親としての性なのだなあと思ったりもしていた。


 この作品の主人公は、中学生の日下部龍樹くさかべたつき。サラリーマンの父親と、専業主婦の母親と三人暮らしである。タツキに対する母親の愛情は申し分ないのであるけれど、最近タツキは母親の過干渉が重すぎてならない。日々のボディタッチ、手作り弁当、勝手に自室に入り、掃除をすることなど。

 タツキには、いろいろ相談できる何人かの女友達がいて、その子たちは親が共働きなので、必要にせまられて自分で弁当を作っている。主に冷凍食品とできる範囲での手作りおかずを詰めているだけだが、タツキには非常に魅力的だった。そこでタツキも、自分で弁当を作ることと、自分の汚れものは自分で洗濯したいと申し出るのだが、母はそれは自分の仕事だと譲らないし、父もまた、母の仕事をとるな、お前は勉強だけしてればよいの一点張りである。根が優しいタツキは、自分が自立をすることで母の仕事を奪い、寂しい思いをさせることは悪いことなのか、親不孝なのかと悩むのだが、友人たちに背中をおされ、自分がやりたいからやるのだと、両親を説得しようとする。母親に無断で部屋に入ってほしくないので、カギをとりつけるも、無残に父から壊され、弁当のおかずを買い続けるのなら、こづかいをやらないとまで言われる。


それでも、優しいタツキは、両親に対して、口汚い言葉を吐いたり、態度で示したりはしない。

母の好意に対してはちゃんとありがとうと言葉にするし、自分の気持ちを伝えているにもかかわらず、無理解な両親の態度に苦しむのだ。そして、タツキはあることに気づく。

タツキの父は、母とタツキを支配して、母はタツキを支配している。タツキの心の成長などまるで無視で、母はずっと可愛い息子を自分だけの手元に置いて、タツキには父の悪口を言いつけ、父には、タツキがさも自分をないがしろにしているように言いつける。


この歪んだ家族関係は、読み進めていくうちにムカムカしてくるが、ある面、昨今、こういう家庭は多いかもしれないと思ったりもする。


子どもは自分の所有物ではない。どんなに可愛がったとしても、離れていくときがきっと来る。

どんな子どもでも、親の優しさを疎ましく思う時が少なからず来るのである。

生きがいを子どもに託さないこと、本当の意味で夫婦が互いを大切にしながら、成長していく子どもをバックアップしてあげること。こんな自然で、あたりまえのことがわからない親が増えてきているのではなかろうか。


 もう自立している息子二人に、時々、おかん小包(手作りのお惣菜や作った野菜など)を送ってしまう私も、夫に言わせれば、ずいぶんと過保護な母親らしい。

 けれど、せめて独身の間ぐらいは、もうちょっとお母さんさせてほしいと願ってしまうのである。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 私の祖母は90歳ぐらいのとき、70歳ぐらいの私の父親に対し、飯は食べたかと聞いていました。 母親にとって、子はいつまでも子なんだと思います。 雪縁さんも、生きている限り母親です。
[一言] 雪縁さんいいお母さん! 私は小学生の息子に今から「君らが自立したら荷物は送らん。ほしいものは自己申告せよ」と宣言しています。我ながら冷たい(笑) この物語のような家族は息苦しいですが、ちょう…
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