本日の一冊「生まれかわりのポオ」
「生まれ変わりのポオ」【金の星社】
森 絵都・作
カシワイ・絵
百ページにも満たない薄い絵本。しかし、中身はもちろん、挿絵はとても味わい深い。
ユーチューブで、生まれたばかりの赤ちゃんと、先住の犬や猫とのふれあいの動画をよく見る。
新しい小さな命を、自分たちが守るべきものと心得て、優しく接している犬や猫たちに心から癒される。
主人公ルイのそばにいたポオも、まさにそんな猫。黒ぶちもようで、背中の大きなハートマークが特徴だ。おおらかで気のいいポオは、ママの最高のパートナー。一緒に暮らし始めて九年目に、ルイが生まれた。ルイのそばには、いつもポオのハートがあって、やわらかな体や、甘い鳴き声や、ミルクっぽい匂いや、どくどくする心臓の音とともに、ルイは育っていった。パパはいないけれど、ママとルイとポオは幸せな家族。ポオの存在は、ママにとってもルイにとってもなくてはならないものだった。
けれど、神様から生き物に与えられた時間は刻刻とすぎ、やがてポオも旅立っていってしまう。
残されたルイの悲しみ。食事もとらず、心を塞いでしまうルイのために、小説家のママは開けずの間に閉じこもる。やがて、ママは出てきて、ママがルイだけに捧げる作品を読んで聞かせるのだ。そのタイトルも「生まれ変わりのポオ」。
ルイという少年が飼ったイモムシが、やがて羽に大きなハートマークのあるチョウになるという話や、おたまじゃくしが背中にハートのあるカエルになった話。それらはルイの心をひきつけるが、所詮はお話の世界でのことであり、ルイを慰めるものにはならなかった。けれども、不思議なものであれほど悲しかった現実も、時とともに薄らいでいく。ルイは、ポオを忘れてしまうくらいなら毎日でも思い出して泣いていたいと思う。そんなルイに、ママは最新作を読んできかせる。そして……。
登場人物はルイとママの二人だけ。ママは小説を書くけれど、自分の気持ちを息子に押し付けたりはぜったいにしない。けれども、ルイの気づきにより、最後は読み手の心にも明るい灯をともす。
この作品を読みながら、ふと「千の風になって」のメロディが脳裏をかけめぐった。
死んだ私の魂は、大きな空を吹き渡る千の風になり、秋には畑にふりそそぐ光になり、冬にはダイヤのようにきらめく雪になる。朝は鳥となり、夜は星となる。
常に自分を見守ってくれる存在が確かにある。そう思えることで、どれほど心強くなるだろうか。
小学校高学年向けの絵本だが、大人にもぜひお薦めしたいと思う。




