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縁の本棚  作者: 雪縁
297/306

本日の一冊 「ひと」

「ひと」【祥伝社文庫】

             小野寺 文宣・著


 本が好きな二人の息子たちと、あれ読んだか?これ読んだかと話し合う時間は本当に楽しい。

 お盆に帰省した次男と書店に出かけた折、次男が本書を手に取って薦めてくれた。

「おかあさん、これよかったよ」

 次男を送っていった帰り、すぐさま書店に寄って買ってきた。


 主人公、柏木聖輔は二十歳。高校生のときに父親を事故で亡くし、さらに、女手ひとつで東京の私大に進ませてくれた母親を亡くした。

兄弟もなく、近しい身内もない聖輔は、大学を中退することを余儀なくされ、就職を考えるもののあてがない。

ある日、空腹にたえかね、「おかずの田野倉」の揚げ物の匂いに引き寄せられた聖輔は、ゆいいつ五十五円の所持金で買えるコロッケを、見知らぬおばあさんに譲ってしまう。店主の善意で、メンチカツを負けてもらい、味わっているさなか、アルバイト募集の張り紙に視線が止まる。


聖輔は、晴れて「田野倉」でのバイトが決まり、家族のように聖輔を気遣う店主の夫婦と従業員たちや、同じ地元出身の八重垣青葉と、そのモト彼氏、元の大学のバンドの仲間たち、母を亡くしたときに手伝ってくれた親戚の基志など、さまざまなひとたちとの交流が始まるのだった。


本当に不思議でならないが、生涯を通じ数えきれないほどのひとたちが、まったく予想もできずに自分の人生にかかわってくるものだ。

その中には自分に良い影響を与えてくれるひともいれば、自分から何かを奪い取るだけの悪いひともいる。優しいひともいれば、冷たいひともいる。お節介なひとも、無関心なひとも。

聖輔も場合も同じで、親戚であるはずの基志は、何かといえば、母親の葬儀を手伝ったと恩に着せては、母が借りたかどうかもわからない大金を、聖輔からむさぼりとろうとする。それをきっぱりと断るのは、ルーズなようにみえても、普段から聖輔をよくみている職場の先輩のエイキである。

 また偶然出会った、同じ地元出身の青葉は、さりげなく人に譲ることのできる聖輔の慎ましさや実直さをよく理解している。


 自分の身の上に起こったことを振り返れば、もっと嘆き、人をうらやみ、貪欲になる人間もいるかもしれない。けれど聖輔は変わらない。仕方ないとあきらめている部分もあるけれど、あくまで身の丈にあった生活で、卑屈にならず、周りの人たちに素直に接していく。

 そして、いつしか料理人であった父のルーツを探し求め、自分の将来を重ね合わせていくのだ。

 執着心がなく、物でも順番でも譲ることができる聖輔がゆいいつ譲れないもの。それはラストを読んでのお楽しみ!


 ひとの心は、ひとによって磨かれたり、傷つけられたり、励まされたり様々だ。

 けれども聖輔のように澄んだ心の鏡を持ち続ければ、その光に吸い寄せられるように、同じ鏡を持つひとが集まるのかもしれない。若い息子たちにも、どうか良いひととの出会いがありますようにと祈りたい気持ちになった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 本日の一冊 「ひと」 色々な人と人の交流がありそうな作品ですね! 良くも悪くも人生とは出会いと別れなのだなぁ、と思いました。(^ー^)
[良い点]  出会い。  いろんなことがありますね。  よいこともあればよくないことも……。  人のほかにも、土地、仕事、趣味など。 「ひとの心は、ひとによって磨かれたり、傷つけられたり、励まされた…
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