本日の一冊 「吾輩も猫である」
「吾輩も猫である」【新潮文庫】
赤川 次郎・新井 素子
石田 衣良・荻原 浩
恩田 陸・原田 マハ
村山 由佳・山内 マリコ
―ああ、夏目漱石のあれね、読んだ読んだ。
―いや、ちがうって。吾輩はじゃなくて、吾輩もってやつよ。
丸々と太った猫が、スーツに身を包み、肩ひじついて椅子にそっくり返った表紙絵。
これは、とある有名な作家のものまね。そう、我が国を代表する文豪、夏目漱石氏である。
本書は漱石の没後百年&生誕百五十年記念出版の作品だ。現代をときめく八名の猫好き作家が名を連ねている。「吾輩は猫である」をもじり」、どれもみんな、猫たちの一人称の視点で書かれた物語だ。
ある日、ふっと懐かしい家にさまよいこんだ私。
そこに住んでいるのは、酒井充という男と涼子という娘。二人は親子だ。そして二人にとって、私は、もと妻であり母親。亡くなったから、猫に身を変えたのである。どうして亡くなったのかといえば、私は自殺したらしい。それも心中。心中?心当たりのない出来事に、私はどうしても合点がいかない。
推理作家、赤川次郎氏の「いつか猫になった日」を皮切りに、新井素子氏の「妾は、猫でございます」。石田衣良氏の「ココアとスミレ」。非常に楽しい四コマ漫画、荻原浩の「吾輩は猫であるけれど」。飼い猫が飼い主を哀れむ恩田陸氏の「惻隠」。博多に実在の「吾輩堂」が登場する、原田マハ氏の「飛梅」そして、村山由佳氏の「猫の神様」。山内マリコ氏の「彼女との、最初の一年」が収録されている。
個人的に好きだったのは「猫の神様」。
―あたしは、あんたの猫なんかじゃない。あんたがあたしのヒトなんだ!
そういいきる三毛のさくら。
―さくちゃんとか、さくらとか何それ? ダサすぎる!
妙に斜にかまえているくせに、「あたしのヒト」にすべて身をゆだねようとしているさくら。
恋多き主人のつきあうオスに文句をつけ、いけ好かないオスと別れて落ち込む主人に呆れつつもさくらは思う。
―あたしにも、あたしのヒトの面倒をみる義務と責任があるのよ
この自己チューで、プライドの高さこそ、猫という動物の自然な姿なのかも。
我が家の猫たちの中にも、甘えるくせに、どさくさに紛れて頭をなでると、はっと身構え、「なにしてるのよ!」といわんばかりに私を見つめる雌猫がいる。毛並みの色で「グレイちゃん」と呼んでいるが、きっと「ダサーい」とつぶやいているに違いない。最初は近づいただけでシャーツと威嚇していたから、そこから考えると、すごい進歩だとは思うが、彼女にとって、私はきっと「あたしのヒト」なのだろう。
二百ページそこそこの薄い冊子。猫好きさんに、ぜひお勧めいたします。




