本日の一冊 「まいごのしにがみ」
「まいごのしにがみ」【理論社】
いとう みく・作
田中 映理・絵
死神のイメージってどんなものだろうか。
タロットカードに描かれたおどろおどろしい死神のイメージが強いのだけれど、この作品に出てくる死神は、なんともヘタレのおじさん。
ある日、公園で遊んでいるぼくに、黒い服を着て、眼鏡をかけたやせっぽちのおじさんが道をたずねてきた。
差し出された名刺には、こう書かれている。
『有限会社 死神本舗 水先案内課 1024号』
裏をひっくり返すと
〈安全・快適にあの世へとおつれいたします〉
要するに死神らしい。けれども、今日行く予定の家がわからないらしいのだ。
イカ公園の近くというから、ぼくの家の近所ではあるけれど。知らない人についていくのはよくない。ましてや死神はいい人とは思えない。
案内をしぶるぼくに、死神は涙目で、自分の実情を語り始める。
自分は情にもろすぎるのだと。
たとえば、父親の臨終の場で、小さな子どもが泣き出したりすると、自分まで泣けてきて、連れていくのを思いとどまるらしいのだ。
「いいことしたんだよ!」
ほめるぼくに、力なく首をふる死神。死神としての営業成績は最下位らしい。
何をしてもみんなよりすごいことなんてひとつもないぼくと、どこか似たもの同士のような気がする死神。
他人事とは思えなくなったぼくは、死神をイカ公園まで案内することにする。死神は、ぼくの道案内の仕方が素晴らしいとほめてくれる。
行く先々で、死神は道端のノゲシを生き返らせ、言葉を交わす。けなげに咲く道端の花に心がいっぱいになってしまうという死神。けれども自分の担当は、あくまで人間だといいきる死神に、道案内をするぼくの気持ちがぐらつき始める。ぼくが案内をしたせいで、ご近所のだれかが亡くなってしまうのだ。
涙ながらに断るぼく。
「わわっ!いけません。涙など」
情にもろすぎる、この死神にとって、人の涙を見ることは何よりもご法度なのだった。
いったん別れたぼくと死神だったが、その夜、ぼくのまくらもとに、死神が現れる。
実は、ぼくの近所で、死神が連れていくはずの人とは……。
予想外のオチ。
そしてほっこりと心温まるエンディングに読後感は上々。
わずか六十ぺージのうすい児童書だが、大人も子どもも楽しめることまちがいなし。
道案内を死神にほめられたぼくの未来と、
野辺の花に心を寄せられる死神の未来に、
乞うご期待!




