本日の一冊 「ライオンのおやつ」
「ライオンのおやつ」【ポプラ社】
小川 糸・作
本屋大賞にノミネートされた話題の本作。おやつというタイトルに、卑しくも惹かれて買ってしまったけれど、物語後半部分からあふれ出る涙をこらえるのが必死だった。
三十三歳の若さで、ステージⅣの癌宣告を受けた主人公、海野雫。彼女の姿が、どうしても亡き母の姿と重なってしまった。何ひとつ症状がないのに、ある日とつぜん、肺がんのステージⅣの余命宣告をうけてしまった母。当時六十二歳。やっと孫も授かり、これからの人生というときに、容赦なく襲いかかってきたつらすぎる現実。
優しい母が、父や私に対して声を荒げた。なんで?どうして、私が死ななくてはいけないの?と、くってかかった。 私たちもやるせなかったが、死の宣告をうけた本人の胸中はいかばかりだったか、想像するだけで、今も胸が痛む。
治療をするもしないも本人の自由と、突き放したような医者の言葉に、私自身はホスピスを選びたかった。けれど地方都市には、当時そういった施設はほとんどなく、父はわずかでも、生きる望みをかけて病院での治療を希望した。母自身は、私たちに任せるとしか言わなかった。
雫も同じだった。湧きあげてくる怒りを、わが子同然にかわいがっていたぬいぐるみたちに容赦なくぶつけた。そして彼女が終の棲家として選んだ先が、瀬戸内海にあるレモン島。そこにある「ライオンの家」と称するホスピスだった。
マドンナとよばれる女性を中心に、温かな島のスタッフたちが、余命幾ばくもない入所者を支える。毎朝の日替わりのお粥は、驚くほど雫を元気にしてくれ、さらにそこでは、毎週日曜日に思い出のおやつの時間があり、入所者それぞれの人生で忘れられないおやつをリクエストすると、再現してくれるのだった。タケオさんの豆花、マスターのカヌレ、百ちゃんのアップルパイ、シマさんの牡丹餅……。
そして雫が最後に選んだ自分のおやつとは?
ライオンの家で雫が出会う様々な人々。犬の六花も含め、そうした人々との交流をとおし、雫は旅立つ日に向けて、気持ちを整理していく。
―死を受け入れることは、生きたい、もっともっと長生きしたいという気持ちも正直に認めることなんだ。なるようにしかならない。私の人生も。そのことをただ、ただ体全部で受け入れて、命が尽きるその瞬間まで、精一杯生きることが人生を全うするということなのだろう。
そして、育ててくれた父と、腹違いの妹にも再会を果たして、雫は静かに旅立っていく。その後は、妹やマドンナたちの視点から、雫の様子が語られていくのだ。
宣告から一年。一度は癌を克服したかのように元気になった母も、再入院の後、クリスマス前夜に眠るように逝った。母に対する私たちの選択がよかったのだろうかと、今でも自問自答する。と同時に、自分は最後の時をどう生きたいのか、静かに考えさせられる一冊でもあった。




