本日の一冊 「こころ日和」
歌集 「こころ日和」
馬見塚 千春
県内で唯一の児童文学同人誌の会に、二十五年近く在籍している。
会の立ち上げとともに入会したので、同期のメンバーは、まるで家族のような存在でもある。
同人誌は年一回発行。その内容は詩あり、短歌あり、俳句あり、絵本あり、創作童話ありと実に多彩だ。そして、ありがたいことには県内のラジオ放送局が、ひとりひとりの作品をラジオで朗読してくれるのである。
基本的には、児童文学の会なので、子どもに向けた作品づくりを目指しているが、会員の文学的なセンスは、それだけにとどまらず、あちこちに枝葉を広げている。
本作「こころ日和」はまだ出版されたばかり。作者の馬見塚さんは、二十年近く短歌を創り続け、そのうちの何首かは、投稿誌などでも高く評価された実力派である。
長年の夢が叶い、今回自費出版された本作には、これまで生きてきた彼女のさまざまな心が映し出されている。それはあたかも日常のワンシーンを切り取ったかのような、さりげないものでありながらも、彼女の心がとらえた優しさにはっとさせられる。以下に好きな歌を紹介してみたい。
•ベビーカーはみ出た足がやわらかく最初の冬に触れるひだまり
•落ちていた桜を両手に包み込み春のかけらを風邪の母へと
私が会の事務局を担当しはじめてから、馬見塚さんは入会された。言葉少なでありながらも、一語一語、ゆっくり言葉を選びながら、話して下さる彼女。誠実そうな第一印象だった。
個人的なことを詳しくお話したことはなかったのだが、今回の歌集で、女性として、これまで彼女の心が向かい合ってきたさまざまな悲しみや、人を愛する喜びがしみじみと伝わってきた。
•目を閉じて卓に額を押し付けて時が過ぎ去るまで
•子を持たぬ幸せもあるのだろうか初秋の風が絵本をめくって
•ケイタイの着信ランプの瞬きもあなたが発する言葉のひとつ
•閉めきれず細く流れる水道に握力弱き母の手思う
•二メートル隣にある死を思いつつ特急列車の風に吹かれる
•最後まで花いちもんめ残りしも縁結ばれるやさしいふしぎ
•真夜中に言葉の庭へ迷い込み花摘むように歌を作りき
•脱衣所に夫の靴下拾う朝 今いる場所が生きていく場所
•がんばれと君が言うならがんばるよ 呼吸整え朝のホームへ
•歌を詠み歌に生かされ生きていく私と私のかけがえのないもの
作者の心が放つ三十一文字の世界は、あたかも、作者とともに歩いてきたかのような深い共感をもたらしてくれる。ときに激しく心をゆさぶられ、またときには、そうそうとうなずきたくもなる。
呼吸するように自然に、これからも歌を詠み続けるであろう作者に、心からのエールを送りたい。




