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縁の本棚  作者: 雪縁
27/306

本日の一冊 「キッチン」

「キッチン」【福武文庫】

         吉本 ばなな作

      

 この本が世に出始めたころ、「吉本なばな」だの、「チッキン」だの、さんざんにトンチンカンなことを言われていた……が、そんなことなどおかまいなしに、この本はフィーバーした。

 二十代のころに読んで大好きになったが、最近読み直してみてもやはり変わりなく、好きだと思った。


 主人公は女子大生のみかげ。両親と早くに死に別れ、たったひとりの身よりである祖母が亡くなってしまったところから話が始まる。

 祖母の知り合いではあったが、みかげとはほとんど面識のない大学生の田辺雄一と、その母(実は父)えりこさんからいっしょに住もうとの申し出を受ける。

 植物が息づき、使いごこちのいい田辺家のキッチンは、心細さにうちひしがれるみかげの心を癒してくれる。そしてまた、雄一とえりこさんの存在も、みかげにとって、家族同様の安らぎの存在となっていくのだった。


 続く「満月―キッチン2」では、冒頭いきなり『えりこさんが死んだ』の一文で胸をわしづかみされる。ゲイバーで働くえりこさんは気の狂った男につけまわされたあげくに殺されてしまったのだ。


 身よりをなくして天涯孤独になってしまった二人。

 絶望感の中でも、自分を投げ出すことなく、闇の中も一筋の光を見出していこうとする二人だが、お互いを深く理解しあうがゆえに、恋愛の世界にふみこむことができない。

 二人が心を通い合わせるひとつの手だては、ともに食べること。

 出張先からひとつのカツ丼を雄一に食べさせたい一心で、深夜、長距離タクシーをとばすみかげ。

 カツ丼を食べ終わった雄一に向かって、ひと言言うシーン。


「……(中略)ねえ、雄一、私、雄一を失いたくない。私たちはずっと、とても寂しいけどふわふわして楽なところにいた。死はあんまり重いから、本当はそんなこと知らないはずの若い私達はそうするしかなかったの。……今より後は、私といると苦しいことや面倒くさいことや汚いことも見てしまうかもしれないけど、雄一さえもしよければ、二人してもっとと大変で、もっと明るいところへ行こう……(中略)」


 やっと自分の思いのたけを打ちあけたみかげ。

 このシーンは何度読んでも好きだ。


 吉本ばななの文体は、それまでの文学作品にない、はっとさせられるようなみずみずしさを放っていた。

 当時は、ばななの作品が世に出るたびに、一冊、もう一冊と買っていたような気がする。

 同時収録の「ムーンライト・シャドウ」についても、また後日に紹介をしてみたい。










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