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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」

「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」

椰月 美智子・作



 もしも、自分が八十五歳の老人だったとして、自宅の近所でスケボーに興じる小学生たちを見かけたらどうするだろう。

 たいていの老人は、危ないから、やかましいからの理由で追い返してしまうのではないだろうか。

 けれども、この物語に出てくる田中さんは違った。

「これ、おもしろそうだね。ちょっと足をのせてみていいかな?」

 左足が不自由なこともそっちのけで、興味しんしんで足をのせてみる。

「これで滑るのかね。すごいもんだねえ」

 感心しつつ、足をおろしかけたとたんに、バランスを壊してひっくり返り、なんと、手首を骨折してしまう。

 そんな出会いで始まる、老人と三人の少年たちとの物語。

 どこかでこういう物語を読んだ記憶が……と思っていたら、湯本香樹実の「夏の庭」だった。

けれどそれよりはずっと、児童向けに描かれた物語だ。


 スケボー大好きな三人組、拓人、忍、宇太佳。

どこを探しても、スケボー禁止の場所だらけの中で、やっと見つけた花林神社の前の通り。花林神社の管理人をしている田中さんに出会い、骨折した田中さんを介抱することから物語は進んでいく。

 三人組の中で、いちばん暇な拓人。成績優秀な兄にひきかえ、何のとりえもなく、打ち込むものもなく、毎日を死んだ目で過ごしている。最初は渋々田中さんの家に向かっていた拓人だったが、どんなことを話しても、ちゃんと拓人に向き合ってあいづちを打ってくれる、田中さんとのふれあいに、次第に心地よさを感じてくる。そのうち、拓人は、自分たちとおない年だったころの田中さんがおかれていた環境が、過酷な戦時中であったことを知る。田中さんは戦争で足が不自由になった上に、終戦の日に落とされた爆撃で、母親と妹を亡くし、天涯孤独になってしまったのだという。悲しい過去を持ちながらも、みんなに助けてもらったおかげで生かされていると感謝の念を忘れない田中さん。そんな田中さんに、拓人はあるお願いを考えつくのだ。さて、それは……?


 相手の身になるということ。それは、想像力をもつことに繋がると思う。

 拓人、忍、宇太佳は、田中さんの悲しすぎる過去を我が身に置き換え、深く考えることによって、田中さんの人生を理解しようとした。そうすることが、単なる老人のお世話ではなく、世代を超えての友情に繋がっていったのだと思う。

 気持ちのいいのは、三人組だけでなく、その母親たち。この母あって、この息子ありと、思わず拍手したくなる。

 高学年の小学生たちに、ぜひ手にとってほしい良書だと思う。



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