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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「ムーンライト・シャドウ」

「ムーンライト・シャドウ」【福武文庫】

             吉本 ばなな・作


 以前に、縁の本棚に吉本ばななの「キッチン」を入れたとき、同時収録されたこの作品にちょっとだけふれた。

 かれこれ、三十年前。

 何度も何度も読み返し、涙した作品だ。

 今読んだらどうなのだろう……。

 真夜中、ほんのちょっとだけとページをめくったつもりが、やはり、時間も忘れて読みふけってしまった。


 主人公のさつきは、高校時代からつきあいはじめて、四年目の恋人、等を突然の交通事故で亡くしてしまう。

 弟の恋人を送っていく途中、まったく非のない事故で、二人とも即死だったのだ。

 悲しみにくれるさつきは、できるかぎり、体を動かすことで、つらい思い出から逃れようとしている。けれどもどんどんとやせ細り、その姿は、はたからみていると、痛々しいほどである。


 等の弟は、柊という。 彼もまた、最愛の兄と恋人を一度に失ってしまった。

もとから、少し変わっているところがあると等が話していたとおり、亡くした恋人、ゆみこが生前来ていたセーラー服を着て、登校している。

けれども、やせ細っていく、兄の元恋人を心配して食事に誘ったり、さりげないやさしさを見せてくれるのは、本当に兄そっくりなのだった。


さつきには好きな場所があった。

毎朝のジョキングで、折り返し地点としている白い橋のかかった川である。そこは生前、等との待ち合わせに使った場所でもあった。

白い土手がどこまでもぼんやりと続き、青い夜明けのもやで霞のかかった街の景色をながめながら、水筒の熱いお茶をゆっくりと飲む。朝のそのひとときがなければ、一日を過ごす自信が持てないほどに、さつきにとっては大切な場所と時間であった。


ある朝、いつものように橋のところでお茶を飲むさつきに、とつぜん、声をかけてきた女性がいた。

うららと名乗るその女性は、さつきに、不思議なことを告げる。

明後日の午前五時三分前までに、いつもの川のところで、百年に一回しか見られないものが見える可能性があるという。それは本当にタイミングよければのことで断言はできないけれど、あの川と関係の深いさつきなら見えるかもしれない、だからお誘いするというのだ。

うららの言葉を半信半疑で受け取りながらも、さつきは、指定された時刻に、川へと向かう。

 しんしんと凍りつくような、月影が夜空にはりつくような夜明け。

 やがて、うららとさつきに見えてきたものは……?


 愛する者との永遠の別れ。身を切られるような悲しみとつらさの塊が、少しずつ、ほんの少しずつ、さつきの中で溶け始めていく。やりきれないほどに悲しい物語だが、読後感はとてもいい。

 作者が日本大学芸術学部在学中に書き、芸術学部長賞を受賞した作品だけあって、無垢な若いエネルギーに満ち溢れた作品である。


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― 新着の感想 ―
[一言]  夜の常世と、昼の浮世。  この二つが入り混じる川面の夜明け、  其処で見える物、そしてその結末は大体見えるんですけどね、  でも、その結末が見えるからこそ、クリスタルガラスのように透き通っ…
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