表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁の本棚  作者: 雪縁
255/306

本日の一冊 「秋の猫」

「秋の猫」【集英社文庫】

        藤堂志津子・作


いろんな事情が重なり、九十歳を目の前にして、父親がひとり暮らしになってしまった。

父親は、まだ現役で仕事をしているし、車の運転も、病院など行先限定で行っている。

介護には至らないが、食事や洗濯の問題、そして何より、父は人一倍の寂しがりやなのである。

おそらく父が話をしなくなる時とは、死んだときかもしれない。

自分の幼少の頃の話、仕事の話、私たちが小さかった時の話、よくもまあ、こんなに話せることと思うほどによく話す。中にはこれで数十回目だよねという話題もあるけれど……。

父を孤独にはさせたくない。かといって、今すぐに私たちの生活を変えることも不可能である。

だから、せめて日々私が実家に通うこと。今のところはそれしかないという結論に至っている。


 秋の始め、どこからか、実家に一ぴきのノラねこがやってくるようになった。

 つやつやとした真っ黒な毛並み、金色の瞳、かぎ状のしっぽ、ノラにしては、人なつこい甘え方。

月並みではあるが、クロと呼ぶことに決めた。

 これまでだったら、ノラねこは家に寄せ付けなかった父だが、朝起きて、クロが来ているときの喜びようといったらない。そして、時間に追われっぱなしの私にとっても、クロを撫でさするときは、つかのま幸せな気持ちになれる。クロは外猫だけれど、ペットの存在は、こんなにも心を癒してくれるのだと改めて感じている。


 本作品は、猫や犬にかかわる、藤堂志津子の五編にわたる短編が収録されている。

 表題作「秋の猫」の主人公は三十三歳になる独身の早智子である。恋人の二度の浮気に、ズタズタになった心を癒してくれたのは、子猫のロロ。ロロのけなげなかわいらしさの前では、どんな男も必要ないと思えてくる早智子であったが、もう一ぴき、ミミという猫を一緒に飼うことにしたとたん、新たな悩みが生じてくる。


「幸運の犬」の夫婦は、出会ってから二人でキチ坊という犬を飼い始める。才能を持ちながらもそれまでは日の目をみることがなかった夫が、キチ坊がやってきて以来、とんとん拍子にキャリアを積んでいく。一方の妻はキチ坊以外に愛情を注ぐ対象はなく、自分には何も残されていないと気付く。夫の不貞により離婚を決意した妻は、無理とわかって慰謝料五千万円を夫に要求。ところが夫は苦労の末、五千万円を用意してくる。けれどもそのかわりにと出された妻への条件は、あまりに寂しすぎて……。


「病む犬」では、念願の犬を手にいれたものの、犬の皮膚の病気や相次ぐ病気で、自らの生活さえも危うくなった主人公の身に起こったこととは……。


 私たちを癒してくれる犬や猫たちの静かな力。

 彼らは表面には出てこないものの、その存在力を十分に感じる短編ぞろいである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なぜ人は、動物を傍に置きたがるのか。 色んな理由があるだろうけど、愛情を注ぐ相手を、求めての事、というのも、ありそうです。 特に、孤独を感じている人にとって、動物は心のすき間を満たしてくれ…
[良い点]  人類と、ほかの生き物。  長い長い時代の流れのなかで、今のような関係が築かれたのでしょうね。  そして。  どれほどの物語が作られ、語られてきたかしれません。  それほど。  人間にとっ…
[良い点] それぞれに、人と人との関わりの難しさ、寂しさを描いた作品のようですね。 そこで犬や猫が、どのように隙間を埋め、あるいは広げるのか……本編が気になります。 なつこい黒猫さんは正義! お父様…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ