表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁の本棚  作者: 雪縁
253/306

本日の一冊 「ゆきひらの話」

「ゆきひらの話」【偕成社】

            安房 直子・作

            田中 清代・絵


 表紙に大きく描かれているのは、くりっとした目で、こちらを見ている小さな土鍋。

 まるいふたと、とってと、口がついていて、おかゆを煮たり、おじやをこしらえるのには、とても便利なおなべだ。本来、ゆきひらなべというのは、このなべのことなのだが、最近では、めっきり使われなくなり、代わりにアルミやステンレス製の片手鍋が、堂々と「ゆきひらなべ」として出回っている。


 我が家にも、土鍋の「ゆきひら」があった。私が幼いころ、熱を出すと、母は必ずそれでおかゆを炊いてくれた。 土鍋で炊いたおかゆと梅干し。弱った身体にはこれが一番だったと思う。


 この作品に出てくるおばあさんは、ひとり暮らし。風邪をひいて、もう長いこと熱が下がらない。

「こんなときにだれかがいてくれたらねえ。せめてねこ一ぴきでもそばにいてくれたら……」

 おばあさんのせつないひとりごとにこたえるように、台所から元気な声が聞こえてきた。

「ぼく、ゆきひらです。ここを開けてください」

 はて? ゆきひらさんって誰だったかしら? 台所へ向かったおばあさんはびっくり。

 しゃべっていたのは、戸棚の中にしまっておいたきりのゆきひらなべだったからである。


 遠い昔、おばあさんが少女だったころに、よく使われていたゆきひらなべ。懐かしさでいっぱいのおばあさんに、ゆきひらは言うのだった。

「あったかいおかゆを作りましょう」

「あついやさいスープはどうでしょう」

 けれども、熱が高いおばあさんが、今食べたいものは冷たいもの。

 すると、ゆきひらはすかさず、りんごのあま煮をごちそうしようといってくれる。


 おばあさんにりんごの皮をむいてもらって、うすぎりのりんごと砂糖を入れてもらうと、それからはゆきひらの出番。とろ火のかまどで、りんごをやわらかくして、ちゃんと火を消し、外へ出て行く。

 なまり色の空に向かって口ぶえを鳴らし、大きな声で歌う。「ゆきひら、ゆきひら、ゆきのなか」

 すると、それを合図のように、どんどん舞い降りて来る雪の中で、雪のように冷たくなったゆきひらは、ようやくおばあさんのまくらもとへ。


 熱のあるおばあさんのあつい口の中で、あまく冷たいりんごのあま煮の、何て美味しいこと!

 あま煮をすっかりたいらげたおばあさんに、ゆきひらは、もうひとつの贈り物をするのだ。

 さて、その贈り物とは……?


 お料理好きだった安房直子さんの童話は、いろんな食べ物が出てくるのも魅力のひとつ。

 この絵本の最後には、「りんごのあま煮のつくり方」が紹介されている。

 小さな土鍋ひとつで、優しい世界を紡ぎ上げることのできる作者の感性に、本当に惚れ惚れとしてしまうのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ