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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「わが家」

「わが家」【くもん出版】

         大谷 美和子・作

         内田 真理・画


 もし、家族のだれかが、自ら命をたってしまったとしたら……。ぜったいに想像すらしたくないことだ。

 どれほどの絶望感に打ちのめされ、あとを追って逝きたい衝動にかられることだろうか。

 けれども、現実的にそうしたことが増えている。

 働きざがりの若い人たち。

 育児まっただ中の主婦たち。

 孤独なひとり暮らしの老人たち。

 そして、未来を担った幼い小学生から高校生までの子どもたちまでが、自死という、最後の道を

いともたやすく選んでしまう。

 ニュースや新聞でもとりあげられているが、子どもたちの自殺は、夏休みあけに多いというのだ。

 そこには本人しかわからない、さまざまな事情があるのだろう。

 悩み、苦しみ、行き着いた先の苦渋の決断。

 だれにも迷惑かけたくない、心配かけたくないといった優しい心の持ち主たちゆえに、判断をあやまってしまうのだろう。

 自殺はいけない。いけないこととは知っていてもそれしか道がない。心の逃げ場がなくなるほどに追いつめられている彼らに、だれがどう手をさしのべたらいいのだろうか。

 安易な答えは出すことはできない。


「わが家」は、生と死をテーマに、作者の大谷美和子氏が書いた児童書の三部作のひとつである。

主人公の真美子は六年生のときに、父親を自死で失った。母はことさらに父親の死因を隠そうとし、残された真美子と、兄のあおぐをひとりで立派に育て上げねばと思うあまりに過干渉となって、真美子と母の関係は限界に来ていた。

夏休みの間、真美子を自分の手元から離したがらない母に、うまく口をきいてくれたのは、父が懇意にしていた民宿「わが家」のおっちゃんだった。

真美子は、民宿「わが家」で、お客さんたちをもてなすために、おっちゃんとおばちゃんを手伝い、一心不乱に働く。

リストラされて悩んでいた父。喫茶店を営み、活動的な母の性格とは、まったく対照的な父親は、どれほど心の中で行く末を悩んでいたのだろう。けれども、亡くなる前夜に、真美子は自分が父に対してとったつっけんどんな態度を許せなかった。どこにも居場所をなくして、父は死んでいった。その原因は自分にもあったのだという自責の念にずっとおしつぶされそうだったのである。


「わが家」で出会ったさまざまな人たちが、真美子にくれたもの。それは再生の力だ。

 西陣の織物を人生にたとえ、織物は裏から織るがそこだけ見ていても何もわからない。でも表を出せばちゃんと一枚の絵になっている。今自分に起こっている出来事の意味がさっぱりわからなくても、それは人生という絵の大事な一部分であるという言葉が、とても味わい深い。


 自死が幸せを呼ぶことは決してない。

 今も悩める方々の心の深淵に、ひと筋の光が射し込んでほしいと、ただ、ただ願うばかりだ。


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