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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「暮らしうるおう江戸しぐさ」

「暮らしうるおう江戸しぐさ」【朝日新聞社】

           越川 禮子・著


 本書は、朝日新聞夕刊マリオンに連載したものを単行本にまとめたものである。

 バッグにしのばせ、隙間隙間の時間に読むには、手にとる大きさといい、一話一話の長さといい、最適である。


 江戸時代。それは徳川家康が幕府を開いた慶長八年から、十五代将軍徳川慶喜の大政奉還により、王政復古が行われた慶応三年までの二百六十五年間を指す。

 二百六十五年間! 今、自分が生きている感覚でいえば、途方もなく長い時間だ。

 この時代に生涯を貫いた庶民も、どれだけいたことかと改めて思う。


 百万都市の花のお江戸。

 この、異文化のるつぼともいえる大都会で、不要なトラブルを回避し、だれもが安心して楽しく暮らせるようにするためには、当然ながら、いろんな手だてがあったにちがいない。

 作者の越川氏は、その手だてとしての「江戸しぐさ」を、伝承として受け継ぎ、紹介されている。


「江戸しぐさ」の代表としてあげられるのが「肩ひき」と「傘かしげ」

 前者は、人混みや、狭い道ですれちがうとき、お互いに肩を後ろに引いて、胸と胸とを合わせて身体を斜めにした格好ですれちがうこと。

 後者は、傘を人のいない方向に傾け、滴で相手を濡らさないようにすれちがうこと。

 いずれも子どものときから教えこまれたマナーであったらしい。


 そして、「うかつあやまり」

 例えば人に足を踏まれたとき、踏んだ人はもちろんあやまるけれども、踏まれてしまった人も「こちらこそうっかりしてまして」と口には出さずともそぶりを見せることをいう。

 自分に注意が足りずにトラブルを防げなかったことを反省するマナーでもあるが、「痛いじゃないのよ!なにやってんのよ!」と詰め寄られ、ケンカになるのを防ぐ手段でもある。


 また、江戸時代は老後を「老入れ」といい、老人の評価は、「どれだけ若者を笑わせたか・どれだけ若者を引き立てたか・どれだけ良きものを伝承したか」で決まったという。

 老人たちの五感を駆使した末の第六感は、「ロクの利く人」として崇められたらしい。

 この他にも、江戸しぐさは、とりわけ人との触れ合い、一期一会の出会いから、プライバシーを尊重し、感謝の心で人と接していたことがわかる。


 歩道を我がもの顔で歩く女子高校生たち、五感よりも情報を鵜呑みにする大人たち、自分たちは用無しとばかりに口を閉ざしてしまう老人たち。

 今の私たちが江戸しぐさから学ぶことは、限りなくたくさんあるだろう。しかし、この「江戸しぐさ」が捏造であるという批判的な意見が、巷に広がっていることも事実なのだ。


 しかし、果たしてすべてがすべて捏造だろうか。

 少なくとも今の時代に失われてしまった、幾つかの優れた知恵を、当時の庶民は大切にしていたことだけは信じていたいと雪縁は思う。

 


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