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縁の本棚  作者: 雪縁
226/306

本日の一冊 「おさじさん」

「おさじさん」【童心社】

        松谷 みよ子・さく

        東光寺 啓・え


 幼いころ、息子たちは食が細かった。とりわけ、長男は無理をさせるともどしてしまうし、食べこみができないせいか、すぐに風邪をひいてしまう。体格も小がらな方だった。

 お茶わんに残ったご飯を、夫はどうにかして食べさせたくて、優しくほらほらと食べさせようとするのだが、長男はいらないの一点張り。

 そこで、わが家もおさじさんに登場ねがった。

「あ、お山の向こうからおさじさんがきたよ!」

 長男、ぱっとこちらを向く。

 おさじでごはんをひとすくい、おさじさんをぴょんぴょんと上下にゆらす。

「ここちゃんのお口にごはんを運びますよ。はい、あーんして!」

 するとふしぎ。いらないの一点張りだった彼は、素直に口を開ける。

「ほいっ。おさじさんがごはんを運びましたよ。ありがとうって言ってるよ」

「もいっかい!」

 長男、すっかりその気になって口を開ける。

 夫が横であきれたようにつぶやく。

「こいつ、なんなんだ……」

 もっとも、この手は毎回は通用しない。

 おにぎりにしたり、お子さまランチ風にしたり、食べさせるのにもひと苦労だった。


 松谷みよ子さんの書かれたあかちゃん絵本の中でも、「おさじさん」はお気に入りだった。


 おやまを こえて

 のはらを こえて

 おさじさんがやってきました


 いい匂いにつられて、おさじさんが訪れたのは、かわいいうさぎの坊やのお家。

 とろとろ煮えた、たまごのおかゆを坊やが食べようとしている。

 おてつだいを申し出るおさじさんに、ひとりで食べるからいらない!と答える坊や。

 けれど鼻をつっこんだとたん、あちちとヤケドして大泣き。

 そこで、おさじさん、胸をはってこう言うのだ。


 ないては だめよ

 ぼくは おさじさん

 おいしいものを

 おくちへ はこぶ きしゃぽっぽ

 さあ おてつだい いたしましょう


 おさじさんが坊やのお口にはこぶ、たまごのおかゆのおいしそうなこと!


 それから二十年以上の月日が流れ、少食だった長男の面影はどこへやら。

 中学時代、身長・体重ともに、急にめきめきと大きくなり、今でもたまに帰宅すると、あきれるほどの旺盛な食欲ぶりを発揮する。

 お口あーんのころの話をすると、本人はちょっぴり照れくさいのか、うそだあ!と笑ってごまかしてしまうのである。

 


 









 



 


 









 


 

 


 


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