本日の一冊 「くだもの」
「くだもの」【福音館】
平山 和子・さく
くだもの。
季節ごとに味わうくだものは、老若男女問わず、私たちの気持ちを豊かにさせてくれる。
ましてや、初めてくだものの味と出会う赤ちゃんや小さな子どもは、興味しんしんにちがいない。
前出の「おにぎり」は、平山ご夫妻の作品だったが、これは、奥様の和子氏の作。
ページを開くと左半分には、まるごとのくだものが。右半分には、それを食べやすくカットしたものが、フオークに刺して差し出され、さあどうぞという言葉とともに繰り返し描かれている。
姉が贈ってくれたこの絵本は、けっこう早くから長男とくりかえし読んでいた。
たとえば、長男の大好きなぶどう。
ガラス皿に入れて、さあどうぞと描かれている。長男はちっちゃな指を伸ばし、ぶどうをつまんだ気分でいる。
「ゴボウ、シュキ!」
ことばを覚えるのが、わりと早かった長男。なのに、自分の好物のぶどうだけは、どうしてもゴボウと言ってしまうのが、おかしく不思議だった。
すいか、もも、ぶどう、なし、りんご、くり、かき、みかん、いちご、ばなな。
本書に出てくるくだものは、どれもこれも、みずみずしくて、まるで写真のように本物そっくり。
これを単なる絵本で片付けてしまうには、あまりにもったいない。
まさに、大人のための画集として紹介されても、なんら不思議でないすばらしさだ。
余談になるが、おいしくても食べ過ぎるとおなかをこわしかねないのがくだもの。
夜にすいかを食べるなとか、桃は新しくないとだめだとか、バナナは半分しかだめだとか、幼い頃の私は、しょっちゅう、両親に制限をかけられた。きっとおなかが弱かったせいかもしれない。
だからかもしれないが、私は、息子たちには、夜でもすいかやなしを食べさせたし、それが原因で、彼らがおなかをこわしたことは、いっさいなかった。
私が大好きなあるエッセイストが、こんな想い出を綴っている。
幼いころの家の行事として、一年に一度、贅沢の日と称し、ありとあらゆるくだものをお店から配達してもらい、夕飯はぬきで、そのぶん、おなかいっぱいにくだものを食べるというのだ。
翌日、下痢をすることがあっても、それは一過性のものだから、親もおおらかに構えていたという。
うわあ、なんという気っ風の良さ。
親子そろって、口のまわりも、両手もベタベタにして、夕飯がわりにくだものにかぶりつく想い出は、生涯忘れられないだろうと思う。
ながめるだけで、くだものの魅力を、存分に紹介してくれる、この絵本。
あなたひとりでも、お子さんやお孫さんといっしょにでも、さあ、どうぞ。




