本日の一冊 「買えない味」
「買えない味」【ちくま文庫】
平松 洋子作
平松洋子のエッセイが好きだ。
文章の生きが良い。ノリが良い。
例えば、冒頭「朝のお膳立て・箸置き」の章で。
ぱちん。
乾いた潔い音を立てて、箸置きの位置を定める。そういや囲碁に似てますな。箸置きひとつ位置が決まれば、いきおい箸の居場所もきちんと決まり、めでたくも本日のお膳の用意が整うのである。
箸置きとしての働きは「戻る場所」。お膳の飾り物なんかじゃなく、テーブルの上で箸の確かな居場所を得ているのだと述べている。
つづいて、「買えない味・冷やごはん」の章で。
米は冷えてから味がわかる。貯金は減ってからありがたみがわかる。冷え冷えと鈍重なごはんには、しかし、かみしめるうち芯から厚みのある甘さがにじむ。ごはんが冷えれば、じんわりじんわり、米の奧に潜んでいたものが正体を露わにするのである。
リズミカルで新鮮。なるほどなあと思わずうなずいてしまう文章にたくさん出会える。
平松氏の作品は、本書の他にも料理と食のエッセイが多数ある。どれも、その内容とともに文章の素晴らしさを味わうことができる、いちおしの作品ぞろいである。




