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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊  安房直子コレクション7より「緑のスキップ」

安房直子コレクション7より

「緑のスキップ」【偕成社】 


 あれほど満開だった桜が、日毎に散っていく。

 アスファルトの地面に、池の中に、駐車してある車の上に、たくさんの花びらがなごりおしそうにさよならのしるしを残していく。

 そのあとに続くのは、いよいよ若葉の季節。

 やわらかなみどりが、花びらの散ってしまった枝をなぐさめるかのように萌えていく。

 ―緑のスキップ。

 なんとも、これからの季節にぴったりのタイトルをさがしあてたものだと、作者のセンスに脱帽である。


 偕成社コレクションの七巻に出てくるこの短編。

 花ざかりの桜林の中で、一羽のみみずくが桜の木のてっぺんに止まっている。

 大きな目玉をぴかぴかさせて、この林の中にあやしいものが忍び込まないように見張りをしているのだ。もしもだれかが忍び込んで、林の中をちょっとでものぞきこもうなら、すぐに飛びかかって阻止しようと、つめも、くちばしの手入れも怠らない。そう、このみみずくは番兵なのだ。


 それほどまでに、みみずくがこの桜林を守りたい理由。

 うす桃色の雲につつまれたような美しさはもちろん、ここには、かわいらしい花かげちゃんが住んでいるからだ。

 黒い髪の毛をさらさらとゆらし、うすい桜色の着物をいく枚も重ねて着ている、あどけない女の子、花かげちゃん。桜の花のかげであり、花が散ったら消えてしまうという。


 だから、みみずくは不眠不休で、桜林を守っている。ひとにらみするだけで、相手を痺れさせてしまうというふしぎな目玉を光らせ、新しい季節を決して迎え入れないように、がんばっているのだ。

 ところがある晩のこと。

 こうもりがさにかくれて林に逃げ込んできたものを、みみずくは猟師に追われたうさぎだと思い、みのがしてやった。けれどその後、待っても待っても猟師は現れず、やがて不思議な足音が聞こえてきたのだった。

 トット トット トット トット

 目を開けようとしたみみずくだが、どうしても睡魔に勝てない。耳だけひくひくさせ、声にならない声で、ただごとじゃないと叫びながら、深い眠りにおちていってしまった。


 目が覚めたみみずくが林の中で見たものは……。そして花かげちゃんは……。


 この物語が収録されているコレクションのタイトルは「めぐる季節の話」

 移り変わる時間を止めることは、だれにもできない。どんなに美しい季節であろうが、いつかは必ず移りゆく。はかないけれども、人生も同じ。

 けれど、すべては巡りめくる。

 だから、移りゆく今を嘆いたりしなくてもだいじょうぶ。

 そう信じつつも心の中には、やはり移りゆく季節を、自分の人生を、惜しみ、悲しむもう一人の自分がいるのだ。


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