本日の一冊 「綿菓子」
「綿菓子」【理論社】
江國香織作
江國香織の作品の中で、マイベスト3をあげるとすれば、「つめたいよるに」「温かいお皿」についで、この「綿菓子」がランクインすると思う。
「綿菓子」は六篇から成るラブストーリー。
冒頭の「綿菓子」の章のヒロイン、小学生のみのりが、最終章の「きんのしずく」では中学生になっている。
みのりには、年の離れた姉のかよこがいる。
次郎くんという大学生の彼氏とつきあっていたにもかかわらず、島木さんというおじさんっぽい、でも本当に人のよさそうな人と、さっさと結婚してしまった。
幸せそうに結婚生活を送るかよこ。
父とは会話らしい会話もなく、家の中の仕事にばかり明け暮れている母。
同じ女性として、母や姉が選んだ人生が、みのりにはどうしても納得できない。
姉とつきあっていた次郎くんに密かな思いをよせるみのりは、ムジュンのない恋に生きようと誓う。
けれども読み進めていくにつれ、意外な展開がみえてくる。
みのりの祖母には、絹子さんという親友がいて、祖母の夫=みのりの祖父は、絹子さんの家で亡くなっていた。親友と夫の裏切りともいえる行為に対し、祖母はきっぱりとこう言い切るのだ。
「だれかをほんとに好きになったら、その人のしたこと、全部許せてしまうものなのよ」
「人はね、だれかに愛されたら、その愛に報いるだけの生き方方をしなくちゃいけないの」
また、姉は嫁いでしまっているというのに、誕生日にメロンを買ってきている父。
「お父さんね、これから毎年、死ぬまでメロンを買ってやるから、だから元気になってくれって」
それは、姉を生むときに難産で苦しんだ母への、父の一生変わらない、不器用な愛情のしるしでもあった。
次郎を選ばなかった姉のかよこは、夫の島木とともに、次郎のバイト先を訪れ、三人でなごやかな交流を続けている。
さまざまなムジュンをかかえながらも、大人の恋とはそうしたものだ。
炭火のように持続したあたたかさで、本当の恋はやがて本物の愛へと、ゆっくりと形を変えていく。
綿菓子のようにまっ白で、純粋な甘い恋は、やがては姿をなくしていく。
次郎との初キスで、大人の入り口に立ったみのり。
恋の甘さもせつなさも厳しさも、これから経験していくことだろう。
児童文学作品のような優しい筆致。でも大人になってしまった女性にも読んでほしい一冊だと思う。




