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縁の本棚  作者: 雪縁
21/306

本日の一冊 「綿菓子」

 「綿菓子」【理論社】

       江國香織作


 江國香織の作品の中で、マイベスト3をあげるとすれば、「つめたいよるに」「温かいお皿」についで、この「綿菓子」がランクインすると思う。


「綿菓子」は六篇から成るラブストーリー。

 冒頭の「綿菓子」の章のヒロイン、小学生のみのりが、最終章の「きんのしずく」では中学生になっている。

 みのりには、年の離れた姉のかよこがいる。

 次郎くんという大学生の彼氏とつきあっていたにもかかわらず、島木さんというおじさんっぽい、でも本当に人のよさそうな人と、さっさと結婚してしまった。

 幸せそうに結婚生活を送るかよこ。

 父とは会話らしい会話もなく、家の中の仕事にばかり明け暮れている母。

 同じ女性として、母や姉が選んだ人生が、みのりにはどうしても納得できない。

 姉とつきあっていた次郎くんに密かな思いをよせるみのりは、ムジュンのない恋に生きようと誓う。


 けれども読み進めていくにつれ、意外な展開がみえてくる。

 みのりの祖母には、絹子さんという親友がいて、祖母の夫=みのりの祖父は、絹子さんの家で亡くなっていた。親友と夫の裏切りともいえる行為に対し、祖母はきっぱりとこう言い切るのだ。


「だれかをほんとに好きになったら、その人のしたこと、全部許せてしまうものなのよ」

「人はね、だれかに愛されたら、その愛に報いるだけの生き方方をしなくちゃいけないの」


 また、姉は嫁いでしまっているというのに、誕生日にメロンを買ってきている父。


 「お父さんね、これから毎年、死ぬまでメロンを買ってやるから、だから元気になってくれって」


 それは、姉を生むときに難産で苦しんだ母への、父の一生変わらない、不器用な愛情のしるしでもあった。


 次郎を選ばなかった姉のかよこは、夫の島木とともに、次郎のバイト先を訪れ、三人でなごやかな交流を続けている。

 さまざまなムジュンをかかえながらも、大人の恋とはそうしたものだ。

 炭火のように持続したあたたかさで、本当の恋はやがて本物の愛へと、ゆっくりと形を変えていく。


 綿菓子のようにまっ白で、純粋な甘い恋は、やがては姿をなくしていく。

 次郎との初キスで、大人の入り口に立ったみのり。

 恋の甘さもせつなさも厳しさも、これから経験していくことだろう。


 児童文学作品のような優しい筆致。でも大人になってしまった女性にも読んでほしい一冊だと思う。






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