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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「母ちゃんのもと」

「母ちゃんのもと」【そうえん社】

           福 明子・作

           ふりや かよこ・絵


 母ちゃん亡き後、父ちゃんと二人で暮らしているたける。十一歳でありながら、「小学生」と「主婦代理」の二つの顔を持っている。

 肉や魚は近くのスーパーで買っても、野菜だけはひと山こえて買いに行けという母ちゃんの遺言どおりに、自転車を飛ばして、野菜の買い出しに行く。


 ある日。坂を登りつめたところにある、通称『口笛峠』で、たけるは、ふしぎなライトバンと出会う。

 車のボディには「走るやおやさん」と書かれ、運転席の上には拡声器。どうみても、移動販売の八百屋さんらしいのだが、ライトバンの主は、まるでミュージシャンのようないでたちの、イケてる男性。

 その人が、百円と交換に、たけるにくれたもの。

 それは、大根二本と、なんと「母ちゃんのもと」だった。


 半信半疑で、たけるが、母ちゃんのもとを一粒、説明書どおりに試してみると……。

 なんと、本物の母ちゃんが現れたのだ。

 顔も、体型も、着ている服も、昔のままの母ちゃん。

 けれども、母ちゃんの記憶はなにひとつ残っていない。目の前の少年がわが子であるということすら、なんにもわからないのだ。

 とつぜんの現実に、たけるはうろたえる。

 「もと」でできた母ちゃんを父ちゃんに会わせていいものだろうか。


 学校をずる休みして、「もと」でできた母ちゃんといっしょに過ごすたける。

 昔の口ぐせも、たけるを怒る言葉も、ひとつずつ教えていくと、驚くくらいに早く覚えてくれるのだ。

 母ちゃんのぬくもりにずっと触れていたい、たけると、幸せな想い出の中だけで生きようとする父ちゃん。

 父ちゃんの心を惑わせたくなくて、必死に母ちゃんのことを隠し通そうとするたけるのすがたは本当にいじらしい。

 そして、ふだんとちがうたけるの様子を心配しつつも、あえて何も聞かず、じっと見守る父ちゃんの優しさもまた胸を打つ。


 なぞの八百屋により、「かあちゃんのもと」が都合よく売られるという設定には、かなり違和感を感じずにはいられない。

 けれど、もう二度と会うことのできない愛する人たち。そんな人たちにせめてひと目でも会いたいと願うとき、「もと」でもいいから……と思ってしまうにちがいない。


 たけるとともに、驚いたり、笑ったり、ハラハラしたり。ひとときも目が離せない物語だ。

 


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