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縁の本棚  作者: 雪縁
202/306

本日の一冊 「ひなの市」

「ひなの市」【教育画劇】

        三谷 亮子・作

        菊池 恭子・絵


 きょうはひなまつり。

 私が幼いころは、我が家には、母のひな壇が飾られ、この日、母は腕によりをかけて、おひなさまのためのお膳を用意していた。

 華やかなちらし寿司、はまぐりのおつゆ、赤貝のぬたあえ、桜餅やひなあられ、それに白酒もちゃんと用意されていた。

 もちろん、おひなさまのためにでもあるし、年に一度の祖母、母、姉、私のためのおまつりでもあったからだと思う。

 母が亡くなってからは、そのおひなさまは姉の家で、毎年出番を待っている。

 昨年は二人の姪に、そろって娘が生まれ、姉と娘たちとそのまた娘たちと、なんともにぎやかなひなまつりを迎えているらしい。


 桃の花びらが散りばめられた表紙のこの絵本。

 主人公は、わかなという少女だ。

 わかなの家のおひなさまは、おばあちゃんから代々受け継がれてきたもの。三人官女のみぎこさんが、わかなの大好きなおひなさまである。


 わかなの住む町にある、市神さまのお社にはひとつの言い伝えがあった。それは、桃の節句の前夜におひなさまたちが市をするということ。

 おひなさまだって節句を前にちゃんと身繕いをしたい。おしろいをぬりなおし、紅もきれいにさしたい、髪も結い直したい、扇も新しくしたい、太鼓の皮のはりかえや、鼓の締め直し、冠も新しくしたいと、なるほどとうなずけることばかりだ。でも、それは単なる伝説と信じて疑わなかったわかなの前に、その晩、本当にみぎこさんがやってきた。


 気がつけばひなだんはもぬけのから。みんな市に行ったのだとみぎこさんは説明する。しかも玄関は細く開けられたまま。おばあちゃんは伝説をちゃんと信じていたのだ。

 みぎこさんと市に向かうわかなは、市神さまの鳥居をくぐりながらどんどん小さくなり、おひなさまのサイズとなる。そして、ひなの市で、着物を着替えるわかなの女びなや、みぎこさんにぴったりの香をつくってくれる香屋に立ち寄ったりといろんな経験をする。

 ところが、そのにぎやかな市にとつぜん暴れ牛が。しかもその牛は、わかなの家のひな檀にある牛車をひく牛なのだった。

 立ち往生するわかなとみぎこさんの前に、とつぜん現れたひとりの笛吹。

 その姿をみとめるなり、みぎこさんは、急に泣き出してしまう……。

 さて、それはいったい……?


 電話で姉とよく話す。

「おかあさんのひな人形たち、すごく年をとってしまった気がするの」

 そう。ひな人形にはタマシイがある。幼いころから、いつもそう言われ、実際に感じて育ってきた。

 だから年に一度は必ず出してあげなければならないのだと。


 連綿と繋がった新しい二つの命を前に、母の古いおひなさまたちは、今夜どんなことを話し合っているのだろうか。

 


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