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縁の本棚  作者: 雪縁
201/306

本日の一冊 「おとめの流儀」

「おとめの流儀」【ポプラ社】

            小嶋 陽太郎・作


 なぎなたを持つ六人の中学生。うち、五人が、最年長の主将、高野朝子率いるおとめたちである。

きりりとしたまなざしが、何ともかっこいい表紙絵だ。


「なぎなた」と聞いて、ふと思い出した過去の記憶。時は、大学卒業のころにさかのぼる。

 卒業見込みはあるものの、なかなか地元に就職口が見つからない。もともと、教職に進む予定だったから、企業のことは頭になかった。しかし四年生の夏に地元の中学校で教育実習をして以来、本当に教師になりたいのかと悩み始めていた。採用試験にも落ちてしまい、さあ、どうしようと考えていたら学生課から呼び出しがあった。地元の女子高校で教員をひとり募集しているのだという。周囲の勧めもあり、とりあえずは面接にということで、その高校へと出向いた。


 面接は校長先生他もう一人の先生がおられた。

 校長先生は、にこやかな笑顔でこう言われた。

「うちはなぎなたの強豪校でしてね。こちらへ来られたら、学科以外になぎなたの部活を指導していただきたいんですが、どうでしょう?」

は? は? なぎなた? 頭がまっ白になる。

「もちろん、監督や顧問の先生もおりますから」

 新人は補助ということなのか? とりあえずは前向きに答えておいた方がいいかな?

「がんばらせていただきたいと思います」

 校長先生はニヤリと笑ってうなずいた。

 そして結果は……不採用に終わった。


 主人公のさと子は中学一年生。母親と二人暮らしだ。年のわりには大人びているさとこは、たったひとりの家族である母を守るためになぎなたを習っており、中学進学を機に、なぎなたの部活に入ることを決心する。ところが、そこで待っていたのは、二年生の主将の朝子さんただひとり。やがて、数名の一年生部員が入り、廃部寸前だった女子なぎなた部はなんとか勢いを盛り返すものの、指導者もおらず、さと子となぎなた歴一年の朝子さん以外は、みんな、なぎなたの知識すらない初心者ばかりだ。


 なぎなた歴一年というわりには、技術的にも精神的にも抜群に強い朝子さんに隠された過去。

 その朝子さんが、打倒剣道部を企て、剣道部対なぎなた部の試合をもくろむ。反発しながらもなぎなた部を愛し、自分との闘いにあけくれる部員たち。さと子もまた、剣道部の強豪相手キツネとどう闘うべきか悩みに悩む。


 そして物語にはもうひとつの横糸が。

 父の顔を知らないさと子に、父の居場所が、親しいホームレスのおじさんによって知らされる。

 さと子は父との対面を果たすのか……。


 自分なりの考えを深めていく中で、これこそが「私の流儀」とよべるものをつかみとっていくさと子の成長がとてもまぶしい。


 さて、冒頭の女子高校。面接に落ちたものの私自身はホッとしていた。強豪校でなぎなたに励む高校生たちの熱意をくめる度量は、当時の私には、はっきりと皆無であった。

 校長先生が求めていらした先生とは、まさに自分の流儀というものを、その片鱗でも感じさせる、自分自身を確立した方であったにちがいない。今さらながらそう思うのだ。


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