本日の一冊 「おとめの流儀」
「おとめの流儀」【ポプラ社】
小嶋 陽太郎・作
なぎなたを持つ六人の中学生。うち、五人が、最年長の主将、高野朝子率いるおとめたちである。
きりりとしたまなざしが、何ともかっこいい表紙絵だ。
「なぎなた」と聞いて、ふと思い出した過去の記憶。時は、大学卒業のころにさかのぼる。
卒業見込みはあるものの、なかなか地元に就職口が見つからない。もともと、教職に進む予定だったから、企業のことは頭になかった。しかし四年生の夏に地元の中学校で教育実習をして以来、本当に教師になりたいのかと悩み始めていた。採用試験にも落ちてしまい、さあ、どうしようと考えていたら学生課から呼び出しがあった。地元の女子高校で教員をひとり募集しているのだという。周囲の勧めもあり、とりあえずは面接にということで、その高校へと出向いた。
面接は校長先生他もう一人の先生がおられた。
校長先生は、にこやかな笑顔でこう言われた。
「うちはなぎなたの強豪校でしてね。こちらへ来られたら、学科以外になぎなたの部活を指導していただきたいんですが、どうでしょう?」
は? は? なぎなた? 頭がまっ白になる。
「もちろん、監督や顧問の先生もおりますから」
新人は補助ということなのか? とりあえずは前向きに答えておいた方がいいかな?
「がんばらせていただきたいと思います」
校長先生はニヤリと笑ってうなずいた。
そして結果は……不採用に終わった。
主人公のさと子は中学一年生。母親と二人暮らしだ。年のわりには大人びているさとこは、たったひとりの家族である母を守るためになぎなたを習っており、中学進学を機に、なぎなたの部活に入ることを決心する。ところが、そこで待っていたのは、二年生の主将の朝子さんただひとり。やがて、数名の一年生部員が入り、廃部寸前だった女子なぎなた部はなんとか勢いを盛り返すものの、指導者もおらず、さと子となぎなた歴一年の朝子さん以外は、みんな、なぎなたの知識すらない初心者ばかりだ。
なぎなた歴一年というわりには、技術的にも精神的にも抜群に強い朝子さんに隠された過去。
その朝子さんが、打倒剣道部を企て、剣道部対なぎなた部の試合をもくろむ。反発しながらもなぎなた部を愛し、自分との闘いにあけくれる部員たち。さと子もまた、剣道部の強豪相手キツネとどう闘うべきか悩みに悩む。
そして物語にはもうひとつの横糸が。
父の顔を知らないさと子に、父の居場所が、親しいホームレスのおじさんによって知らされる。
さと子は父との対面を果たすのか……。
自分なりの考えを深めていく中で、これこそが「私の流儀」とよべるものをつかみとっていくさと子の成長がとてもまぶしい。
さて、冒頭の女子高校。面接に落ちたものの私自身はホッとしていた。強豪校でなぎなたに励む高校生たちの熱意をくめる度量は、当時の私には、はっきりと皆無であった。
校長先生が求めていらした先生とは、まさに自分の流儀というものを、その片鱗でも感じさせる、自分自身を確立した方であったにちがいない。今さらながらそう思うのだ。




