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縁の本棚  作者: 雪縁
20/306

本日の一冊 「やまなしもぎ」

「やまなしもぎ」【福音館】

        平野 直・再話

        太田 大八・画


―ゆけっちゃ かさかさ

―ゆくなっちゃ がさがさ


 ここちよいリズムに、読み聞かせをしている側も思わず、熱が入ってしまう。

「やまなしもぎ」は、岩手県の民話を採集していた作者にその友人が伝えたものらしい。

 あらすじはざっとこんなものである。


 あるところに病気のおかあさんと三人の息子がくらしていた。おかあさんが、兄弟に、おくやまのやまなしがたべたいというので、まず、一番目のたろうが出かけていく。途中で出会ったひとりのばあさまから、のどがかわいてたまらないから水をくんでくれとたのまれるが、たろうはそれをことわってしまう。そして、ばあさまの教えを聞かず、ゆくなっちゃの道にすすんでいったので、ぬまのぬしにのみこまれてしまう。続いて行った二番目のじろうものみこまれ、ついに三番目のさぶろうが出かけることになった。


 さぶろうは、ばあさまに水をくんでやり、いわれたとおりに、ゆけっちゃ かさかさといわれた道をすすんでいく。すると、たわわに実ったやまなしの木があり、木がうたうとおりに実をもいだ。ところがぬまにさぶろうのかげが映ってしまい、ぬまのぬしが現れる。さぶろうはばあさまにもらった刀で、ぬしを退治し、のみこまれた二人の兄を救い出した。さぶろうのとってきたやまなしの実を食べて、おかあさんは元気になった……めでたしめでたしというお話。


 むかしばなしによくあるパターンであるが、うちの次男はこの本が大好きで、いったいどれほどいっしょに読んだかわからない。


 次男が一年生になったとき、クラスでの読み聞かせに、私は意気揚々とその本を持っていった。

 あれほど息子の好きな本なら、きっとほかの友だちもおもしろいはず……そう信じきっていたからだ。

 その日はちょうど担任の先生が席をはずしていた。

 私がその本をとりだすと、息子はおどろいたような表情になり、とつぜん立ち上ると、自ら、全員にそのお話を語り始めた。それもめちゃくちゃ荒っぽく。完全な読み聞かせの妨害だった。


 でも、いったいどうして? 

 次男の行動は、私にとって解せないことだった。

 夕方、先に帰宅した、当時四年生の長男にこの話をしたところ、思いがけないことばが返ってきたのだった。

「あのね、おかあさん、あいつはさびしかったんよ。おかあさんと二人きりで読んだ本をみんなに聞かれたくなかったんよ」

……ということは、もしかして?

「ぼくもそう思ったことが、何度かあったよ」

 ガーンとショックを受けた。そうだったのか……。こんなことに気がつかなかったなんて……。

 以来、息子たちのお気に入りの本は、クラスでの読み聞かせには、ぜったい持っていかないことに決めた。


 この絵本の表紙を見るたび、幼いころの息子たちと、未熟な母親だった自分のことが、昨日のことのように思い出されて、心がチクンと痛むのである。


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