本日の一冊 「安房直子コレクション」
「安房直子コレクション」全七巻【偕成社】
安房 直子作
1「なくしてしまった魔法の時間」
2「見知らぬ町ふしぎな村」
3「ものいう動物たちのすみか」
4「まよいこんだ異界の話」
5「恋人たちの冒険」
6「世界の果ての国へ」
7「めぐる季節の話」
なにはさておきましても、「縁の本棚」の一番中心におはしますのは、この七巻のコレクション。
どれが好き?といわれると、途方もなく迷ってしまうので、お薦めしたい作品は、そのうち、一作ずつとりあげていこうと思う。
幼いころ、ひとり空想の旅に出かけては、物語を紡ぎ出すことが何より好きだった。が、成長するとともに、ほかのことに時間を奪われ、空想の旅に必要な魔法の杖は、いつしか動かせなくなってしまっていた。
結婚して数年後。やっと小さな命を授かった。
日に日に成長していく命を感じながら、なぜか、むしょうに童話が読みたくなった。
そんなときに、たまたま図書館で手にとった一冊が、安房直子さんの「北風のわすれたハンカチ」
これが安房作品との初めての出会いだった。
以来、私は彼女の作品のとりこになり、来る日も来る日も安房作品ばかりを読み続けた。
そう。私がずっと求めていた物語の世界は、まさにこの世界。安房さんの世界なのだと。
以来、自分にとっては心のバイブルとなり、そしてまた、このバイブルのおかげで、私は再び、ほこりだらけの魔法の杖を動かすことができるようになった。
安房さんには、子どもが読める程度の長さで、大人も子どもも魅了される作品が数え切れないほどある。
そこには大がかりな舞台はいらない。海辺の町であったり、森の中であったり、小さな町のお店であったりと、ごくごくあたりまえの世界に、ふっと現れるファンタジーの入り口。通ったかどうかもわからないまま、読者はいつしかファンタジーの世界へと入り、そして、いつ抜け出したともはっきりわからないまま、また現実世界へと戻っている。
ファンタジーの入り口出口が、本当に自然に描ける作家だ。たとえ異界への入り口であろうとも、それは日常の延長上にあってあたりまえと、読者にすんなり受け入れさせてしまう技術はみごとである。
偕成社から出ているこのコレクションを贈って下さったのは、私が尊敬してやまない先輩作家。その方もまた、安房さんがお好きだという。
これからも、もっともっと安房さんの世界を楽しませてほしかったけれど、悲しいことに安房さんは、平成五年の冬にご逝去されてしまった。
残されたコレクションの一巻から七巻までの作品のあとに、彼女の創作に対するエッセイが付記されている。これらが本当に素晴らしい。時々開いてみては姿勢を正している。初めて安房直子さんの作品に触れたときの感動と、創作に対しての初心を忘れないために。