本日の一冊 「クマのあたりまえ」
「クマのあたりまえ」【ポプラ社】
魚住 直子・作
槙田 真・絵
わずか百三十頁ほどの小さな本。
だが、読み終わった感想はただひと言。非常に「深い」のである。
七篇の寓話ともいえる短編に登場するのは、すべて動物たち。
プライドの高いチドリ、人間になった母をさがす子ザル、少女の願いを叶えてくれるアメンボ、
殺すことが好きなアオダイショウ、鯉の友だちとわかりあいたいクロエ、空腹なライオン、そして「死ぬ」ことがこわい子グマ。
読みやすい文体、易しい言葉で、ここまで、人生を深く描ける作者の筆力にあらためてすごい!と思わざるをえない。
表題作「クマのあたりまえ」では、一頭の子グマが、森の中で、大きなオスグマの死体を発見することから始まる。
まぶたは開いているのに、何を見ているのがわからないようなくらい目。地面と同じくらい冷たくなった体。
恐怖にかられて、子グマはいちもくさんに家に逃げ帰り、にいちゃんのクマに一部始終を報告する。すると、にいちゃんクマはこう答える。
「あのクマは長生きだったんだ。それにだれでも死ぬんだぜ」
「ぼくも死ぬの?」
「あたりまえだろ。みんな死ぬ。おれも、おまえも」
死にたくない子グマは、死なないものになりたいと願う。花も木も枯れてしまうから、きっと死んでしまうのだろう……。考えに考え、ついにこれなら死ぬことはないと思えるものに行き当たる。さて、それはいったい……?
もうひとつのお気に入り。
心にふわりと春風を呼んでくれるような一作は「アメンボリース」
林の中にある小さな池で、アメンボたちと出会ったさとみ。いろんな不安で眠れないことを話すと、アメンボたちは、夜にすくいとった『池のおもて』をさとみにくれる。
数年後、アメンボたちへのお礼をかねて、恋の悩みを相談したさとみに、彼らはまたまた朝焼けにすくいとった『池のおもて』をくれる。さて、それらはいったいどんなもの……?
生きるとはどんなことだろう?
わかりあえるとはどんなことだろう?
年を重ねた今でさえ、私自身、はっきりとはこたえが出せないでいる。
ただ、生きるということは、幸せの中にも、常に一抹の不安と寂しさがつきまとうものだと感じている。
せわしなく生きていく毎日。ふと立ち止まって自分を省みるのには、最適な本だとお薦めしたい。




