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縁の本棚  作者: 雪縁
197/306

本日の一冊 「クマのあたりまえ」

「クマのあたりまえ」【ポプラ社】

           魚住 直子・作

           槙田 真・絵


 わずか百三十頁ほどの小さな本。

 だが、読み終わった感想はただひと言。非常に「深い」のである。

 七篇の寓話ともいえる短編に登場するのは、すべて動物たち。

 プライドの高いチドリ、人間になった母をさがす子ザル、少女の願いを叶えてくれるアメンボ、

殺すことが好きなアオダイショウ、鯉の友だちとわかりあいたいクロエ、空腹なライオン、そして「死ぬ」ことがこわい子グマ。

 読みやすい文体、易しい言葉で、ここまで、人生を深く描ける作者の筆力にあらためてすごい!と思わざるをえない。


 表題作「クマのあたりまえ」では、一頭の子グマが、森の中で、大きなオスグマの死体を発見することから始まる。

 まぶたは開いているのに、何を見ているのがわからないようなくらい目。地面と同じくらい冷たくなった体。

 恐怖にかられて、子グマはいちもくさんに家に逃げ帰り、にいちゃんのクマに一部始終を報告する。すると、にいちゃんクマはこう答える。

「あのクマは長生きだったんだ。それにだれでも死ぬんだぜ」

「ぼくも死ぬの?」

「あたりまえだろ。みんな死ぬ。おれも、おまえも」

 死にたくない子グマは、死なないものになりたいと願う。花も木も枯れてしまうから、きっと死んでしまうのだろう……。考えに考え、ついにこれなら死ぬことはないと思えるものに行き当たる。さて、それはいったい……?


 もうひとつのお気に入り。

 心にふわりと春風を呼んでくれるような一作は「アメンボリース」

 林の中にある小さな池で、アメンボたちと出会ったさとみ。いろんな不安で眠れないことを話すと、アメンボたちは、夜にすくいとった『池のおもて』をさとみにくれる。

数年後、アメンボたちへのお礼をかねて、恋の悩みを相談したさとみに、彼らはまたまた朝焼けにすくいとった『池のおもて』をくれる。さて、それらはいったいどんなもの……?


 生きるとはどんなことだろう?

 わかりあえるとはどんなことだろう?

 年を重ねた今でさえ、私自身、はっきりとはこたえが出せないでいる。

 ただ、生きるということは、幸せの中にも、常に一抹の不安と寂しさがつきまとうものだと感じている。


 せわしなく生きていく毎日。ふと立ち止まって自分を省みるのには、最適な本だとお薦めしたい。



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