本日の一冊 「クリーニングのももやまです」
「クリーニングのももやまです」【理論社】
蜂飼 耳・作
菊池 恭子・絵
腕がよく、親切で、信頼できるクリーニング屋さんが近くにあると本当に助かる。以前住んでいた社宅の道路へだててすぐ前にあったクリーニングやさんは、老夫婦が二人で経営している小さな個人店だったが、受付のおばあさんの記憶力が素晴らしかった。
お客がやってくると、顔を見るなり、すぐさま預かっていた洗濯物をそろえてくれる。まだ控えの用紙も見ないうちにである。どんなにたくさんの預かり物でも一点の落としもない。
カッターシャツのボタン付け、こちらが気がつかないズボンのほつれの修繕も、サービスでしてくれていた。クリーニングをされるおじいさんも、気さくで、とても親しみやすい方。
お二人、地域に根をはって、元気にお店を切り盛りするすがたが、清々しかった。
さて、本書に出てくるももやまさんの、「ももやまクリーニング店」は、ひいおじいさんの代から、ずうっと受け継がれてきたお店。町の中をゆったりと流れる大きな川のそばにあり、そこで、ももやまさんは、どんなときでも心をこめて、ていねいに仕事をしている。
そんなももやまクリーニング店には、ふしぎなお客さまも多い。
ある日、やってきたのは、なんとおじぞうさま。
赤いよだれかけをクリーニングに出したのだが、色が薄くなっていると、文句を言い始める。
するともうひとりのおじぞうさまが現れ、そんんなことはないととりなしてくれるが、そのおじぞうさまのよだれかけと比べれば、クリーニングしたものは明らかに色が薄くなっている。
おじぞうさまの配慮に気がついたももやまさん。もう一度そのよだれかけのクリーニングを申し出る。
また、あるときはゆきだるま。
クリーニングされたまっ白なセーターの中には、木のもようが編み込まれ、まるで冬の林のよう。
着てみてくださいという、ゆきだるまのリクエストにこたえ、ももやまさんがそのセーターを着てみたとたん、ゆきだるまと雪の林の中にいた。
ゆきだるまといっしょに、赤いそりに乗って、あちらこちらを飛び回るももやまさん。しばらくすると何ごともなく店の中にもどっていた。
ほのぼのとした小さなお話が続くが、最終章でとつぜんの出来事が……。
それは、ももやまさんが人魚のしっぽを預かったときからだった。
軽くてぺらぺらとしたそのしっぽ。扱い方はひいおじいさんの書き残したメモを見ればすぐにわかった。
そのメモに残されたなぞの言葉。『人魚のしっぽは人魚に返さなくてはならない』
あたりまえのことなのに、ももやまさんはひまさえあれば、そのしっぽを手にとり、落ち着かなくなってしまう。今、こうしてこの仕事をしていることに疑問をもち、世界はもっと広いということを常に考え続けるのだ。そしてももやまさんが決心したこととは……。
人はだれしも立ち止まるときがある。立ち止まってゆっくりと考えなければならない時期が。
ももやまさんは、きっと、自分がその時期にいることに気がついたのかもしれない。
子どもにも、大人にもお勧めしたい一冊だ。




