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縁の本棚  作者: 雪縁
187/306

本日の一冊 「さらば 猫の手」

「さらば 猫の手」【岩崎書店】

        金治 直美・作

        こぐれ けんじろう・絵


 年も押し迫ってくると、あれもしなきゃ、これもしなきゃと気ぜわしくてたまらない。

 こたつでのんびり幸せそうにねそべっている猫を見ると、まさに、ことわざのとおり、猫の手でも借りたい気持ちになってくる。実際、あのぷよぷよとした肉球の手で、何ができるのか、はなはだ疑問ではあるけれど。


 本書に出てくる「ぼく」こと、桜井リュウイチロウは、とにかく多忙を究めていた。

 スイミングスクール、ヤマカワ音楽教室のレッスン、通信講座の学習シートの束。それに、学校で罰として出された漢字六百字の宿題。

 考えただけで頭がくらくらしてきそうだ。

それらに加え、「ぼく」には今、とてものめりこんでいるものがある。

それは何かといえば、まんが。四コマまんがを描いて、少年コミックのまんがスクールに送っている。今月のしめきりまであと三日。三ヶ月連続投稿をした人の欄に名前を出してもらえる。それを励みにがんばっているのだった。

けれども、そういうことは両親にはぜったい内緒。なんとかバレないように上手くやらなければと思っていた矢先、「ぼく」は、一台のガチャポンの機械を見つける。中にある丸いプラスチックの容器には、白や黒や茶色の毛糸玉みたいなものが入っていて、こんな文字が添えられてあった。

「猫の手も借りたいほどいそがしい小学年のキミへ。この「猫の手」できみの悩みを解決しよう!」

これを使わない手はない。「ぼく」はさっそく説明書通りに猫の手を使うことにした。

 その猫の手は実に優秀。ピアノを弾いてくれれば、きれいな文字で漢字も書いてくれるし、ドリルの束も次々に仕上げてくれる。

 使うときには、猫の手をひざにのせ、つま先にむかってなでながら「猫の手、猫の手、~しておくれ」と願うのだが、反対向きにするとだめだし,ひとつ仕事をするたび、毛が一本抜ける。全部抜けたらもうおしまい。猫の手ができないものは水仕事と力仕事、犬の散歩らしい。

「ぼく」は、その「猫の手」を使い、自分に課せられたさまざまなことを片付けていくのだが、やがてあることに気がつく。

 それはいったい……?


 まんがといえば、わが長男。将来はぜったいまんが家への道を進むのかと思わせるくらいにまんがを描くのが好きだった。小学校三年生で、まんがを描くのに必要な一式をそろえ、学校の勉強などそっちのけで夢中で描いていた。目標とするまんが家はもちろん手塚治氏。彼にとって、この作品の「ぼく」はとても身近に感じられたのだろう。何度も読んで書いた読書感想文が、コンクールで初めて入賞できた思い出の作品でもある。

「猫の手」を題材に扱った児童書はたまに見かける。が、中でも本書はずば抜けて面白いのはもちろん、子どもの心に寄り添った秀作だとつくづく感じるのだ。

 


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