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縁の本棚  作者: 雪縁
182/306

本日の一冊 「こんぴら狗」

「こんぴら(いぬ)」【くもん出版】

         今井 恭子・作

         いぬんこ・画


 江戸時代、病気などで、お伊勢さまに参拝できない主人に代わって、飼い犬が知り合いに連れられ、参拝したという史実がある。

「おかげ犬」と呼ばれる犬たちだ。

 旅に必要な資金と、伊勢神宮に参拝する旨を書いたメモを首に下げ、無事に参拝できた証には、神宮の御札を首に下げて持ち帰らせる。

 同じように、犬の代参は金比羅さまにもあり、こちらは「こんぴら狗」と呼ばれていた。

 

 物語の舞台は、文政三年(一八二〇年)江戸の町。

 主人公は、線香問屋・郁香堂の娘、弥生と、弥生が拾ってきた捨て犬である。

 一月の寒空の下、いっしょに捨てられていた五匹の兄弟たちはみな命を落としたが、弥生の懸命な手当により、すくすくと成長した子犬は、睦月にちなんでムツキと名付けられた。


 三年後、郁香堂の跡取り息子である弥生の兄が亡くなり、その翌年には、元気いっぱいの弥生が床に伏せるようになった。

 どこか霊験あらたかな神社におすがりして、弥生の病気平癒を願いたい。弥生の母は願ったが、伊勢も金比羅も江戸からでは、あまりに遠すぎる。そこへ、懇意にしている美陶園のご隠居が妙案を出す。なんと、ムツキをこんぴら狗として旅をさせたらどうかというのだ。


最初は反対した弥生だったが、ご隠居の熱意に負けて、ムツキを金比羅さまへと送り出すことに決めた。

「江戸瀬戸物町 郁香堂 飼い犬」と記した木札と、赤い糸で「金」と縫いつけた銭袋。この中に金毘羅さんへの初穂料と、道中のムツキの餌代が入っている。これをムツキの首輪にすると、正真正銘の、りっぱなこんぴら狗なのだった。


 かくして、ご隠居とムツキの旅は始まる。

 こんぴら狗というだけで、周囲は温かく迎えてくれる。当時の庶民の金毘羅様への信仰がどれほどのものだったか、ムツキへの待遇でも、十分うかがい知ることができる。

 順調にいっていたはずの旅だったが、東海道を越えるあたりで、次第に運命が狂い始めた。

 なんと、ご隠居が風邪をこじらせて亡くなってしまったのである。


 ひとりぼっちになってしまったムツキ。

 けれども首につけたこんぴら狗のしるしは、あらゆる人々との出会いを呼ぶ。

 が、中にはムツキにとって好ましくない出会いもあった。

 ムツキは無事に金毘羅さんへとお参りができるのだろうか。

 そして、弥生のもとへと帰ることができるのだろうか。

 ラスト、号泣まちがいなし。


 犬の好きな方には、ぜひ読んでいただきたい児童書。といっても、かなり長くて、当時の歴史の背景も合わせて読み応え満点である。


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