本日の一冊 安房直子コレクション7より 「初雪のふる日」
安房直子コレクションより
「初雪のふる日」
暖かな初冬が、ジェットコースターのように一転。急に真冬並みの寒さになってきた。
この週末、初雪をみる地域は多いのではないだろうか?
こちらは真冬でも数えるほどしか積雪を見ないから、初雪が降ると、寒いことも忘れて、なんだかウキウキしてくる。
とりわけ、大きなぼたん雪が、ほとほとと落ちてくるとき。
だれがいったい、こんな美しいものを降らせているんだろうなどど、年がいもなくうっとり考えてしまうのだ。
初雪をふらせるのは、雪うさぎ。
安房直子さんのコレクションに、短いけれどこんなお話がある。
秋の終わりの寒い日。
ひとりの女の子が、ろうせきで描かれた石けりの輪を見つけた。
どこまでも、どこまでも続く、途方もなく長い石けりの輪。
ためしに、その輪の中にぴょんと飛び込むと、女の子の体は軽くなって、ゴムまりみたいにはずんできた。
片足、片足、両足、片足……。
女の子が夢中で飛んでいると、ほろほろと雪が降り始める。同時にうしろの方から、
「片足、両足、とんとんとん」
そんな声が聞こえてきた。
女の子がびっくりしてふりかえると、ふりしきる雪の中を、数え切れないほどの白うさぎが、ずらりと一列になって飛んでいる。そして女の子の前にもまた、白うさぎの列が続いているのだった。
ぼくたちみんな雪うさぎ
雪をふらせる雪うさぎ
うさぎの白は、雪の白
片足 両足 とんとんとん
うさぎたちは歌いながら、モミの森をぬけ、凍った湖を渡り、どんどん進む。群れにまきこまれた女の子も飛び続けないわけにはいかない。
女の子は、おばあさんに聞かされたことを思い出していた。
初雪がふる日には、北の方から白いうさぎがどっとやってきて、目がまわるくらいに速く、山から山、村から村をわたるのだと。だからもし、そのうさぎの群れにまきこまれてしまったら、永久に帰ってこられないのだと。うさぎたちといっしょに世界の果てまで飛んでいって、最後は小さい雪のかたまりになってしまうのだと。
可愛らしいお話かと思いきや、意外に怖い。
果たして、女の子は、無事にうさぎの列から出ることができるのだろうか。
石けりの輪。読んでいてなつかしかった。
「ケン、ケン、パー、ケン、パー、ケン、パー」
夕暮れ、よくそうやって、ひとりあそびをしたものだ。
幸いにも、だれにもさらわれなかったけれど。