本日の一冊 「コンビニエンス・ドロンパ」
「コンビニエンス・ドロンパ」【童心社】
文・富安 陽子
絵・つちだ のぶこ
現在、私が暮らしている地区は、田舎のわりにコンビニが多い。が、実家の方向に、しばらく車を走らせると、そこはもうコンビニ一軒すらない、とてもうら寂しい田舎の一本道なのである。
視界に入るものといえば、田んぼ、寺、神社、はるかかなたにそびえる山々。
そんな秘境の地に、あえて進出をねらったのか、この秋、一軒のコンビニがオープンした。
おかげさまで連日、駐車場は賑わいをみせているようだが、ひとつ気にかかるのは、そのコンビニ、ご多分に漏れず二十四時間営業であるということ。
だいたい、住んでいる住民のほとんどが七十代以上の老人ばかりなのに、二十四時間開けていて、深夜のお客はいるのだろうか。かえってこわくないだろうか。
私の中に浮かんでくるのは、この絵本である。
おとわやまのイロハもみじの木の下にオープンしたコンビニエンス・ドロンパ。
スタッフはのっぺらぼうの店長と、アルバイトのがいこつ。
くさきもねむるうしみつどきに、ひとだまシャンデリアに灯がともり、いよいよオープン!
のっぺらぼうがレジにすわるやいなや、訪れた最初のお客は、ゆうれいのおキクさん。
「おばけかとりをくださいな~。柳の下はヤブ蚊が多くって~」
シャンデリアの中からとびだしたひとだまが一匹、かとりせんこうのうずまきのはじっこに火を付けてあげるサービスぶり。
続いてやってきたのは、かっぱ三兄弟。
きゅうりアイスにやまももアイス、やまぐりアイスを注文すると、のっぺらぼうは慣れた手つきで、アイスクリームを三つのコーンにこってり盛って、どんぐり五つをトッピング。
イノシシ一家は月夜の遠足にとお弁当を。
ろくろっくびのお姉さんはシャンプーを。
かしわばやしのやまんばは、ドロンパ・まんじゅうをどっさりと。
ヒソヒソ岩の大蛇は、ドロンパ・ビールを一ケースも。
その夜のコンビニエンス・ドロンパは大繁盛だった。
ところが、どこの世界にも悪いやつというのはいるもので、夜あけ近くに、こっそり、ひっそり足音をしのばせてやってきた、こそどろイタチ。
のっぺらぼうが疲れて居眠りをしているのをいいことに、冷蔵庫の中を物色しようとした。
ところが、そのとたん……。
なんといっても、この絵本、挿絵がかわいい。
お店の中で売っているさまざまなものを、思わず一生懸命に見てしまう。
書籍のコーナーには、お化け本が目白押し。新聞には「ごくらくニュース」「日刊おにスポ」なんてものもあり、思わず顔がほころんでしまう。
あの新しいコンビニにも、深夜にはそんな客が出入りしてないかな……。
何となく妄想を逞しくしてしまう。




