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縁の本棚  作者: 雪縁
178/306

本日の一冊 「おこだてませんように」

   「おこだてませんように」【小学館】

             くすのき しげのり・作

                 石井 聖岳・絵


「おかあさん、よくぼくたちを怒ったよね」

 長男のアパートで、久しぶりに二人きりで夕食を食べていたときのこと。不意に彼がそう言った。

「そんなに怒ったっけ?」

「うん。ぼくたちが悪いときはね」

 よかった。いちおう恨まれてはいないようだ。

 

 子どもたちが小さいときは、親も忍耐が必要だ。

 おおいにかわいがり、叱らねばならないときは思いきり怒る。

 子育てにおいて、それを自分の大原則としていたつもりだったが、親とて聖人君子ではない。

 疲れたとき、気分が滅入っているとき、急いでいるとき、思い通りに子どもが動いてくれないと思わず声を荒げてしまうことだってあった。

 働いているお母さんたちなら、だれしも経験があることだろうと思う。


 主人公のぼくは、家でも学校でもよく怒られる。

 仕事で遅くなるおかあちゃんの代わりに、妹の面倒をみてあげていると、そういうときに限って妹はわがままをいう。怒るとすぐ泣く。やっと泣きやんで、おかあちゃんが帰ってきたとたん、また泣く。おかあちゃんはぼくを怒る。

「また、妹 なかして!」

(妹のくせに わがままばかり いうからや)

「まだしゅくだいしてないの!」

(妹とあそんでやってたからや)

 のど元まで出かかったことばをぐっと飲み込んで、ぼくは、だまってよこを向く。よこを向いて、何もいわずに怒られる。

 学校でも同じだ。

 捕まえたかまきりを見せただけなのに、女の子は泣き出して怒られる。

 給食当番で、おかずのつぎかたが悪いと怒られる。

 仲間はずれにされたから、くやしさのあまり、友だちにキックとパンチをしたら、また怒られた。

 口答えをしたら、先生はもっと怒る。だからだまってやり過ごす。

 きのうも、きょうも、きっとあしたも、ぼくは怒られる。

 本当は「ええこやねえ」っていわれたいのに、ぼくを見るときのおかあちゃんや先生の顔は、いつも怒っているんだ。

 どうしたら、ぼくは怒られないようになるんだろう?

 どうしたらほめてもらえるんだろう?

 ぼくは、たなばたの短冊に思いをこめて書く。

『おこだてませんように』

 たどたどしい文字が起こす奇跡。 ラストは、思わず涙ぐんでしまう。


 だれだって怒られるのはいやである。小さなことでも、大人だってほめられると嬉しいものだ。

 子どもであればなおさらのこと。

 怒るということがあたりまえになっていないだろうか。子どもの顔をちゃんと見つめているだろうか。

 静かに反省をうながしてくれる一冊だ。


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