本日の一冊 「森のお店やさん」
「森のお店やさん」【アリス館】
林原 玉枝・文
はらだ たけひで・絵
大人も子どもも楽しめる、小さな童話集。
森に住む小さな動物や虫たちが、思い思いにいろんなお店を開いた。
きつつきが開いたのは『おとや』という店。
《できたての音、すてきないい音、おきかせします。しぶおんぷ一個につき、どれでも100リル》
お客さんのうさぎに聞かせたのは《ぶなの音》
うさぎを大きなぶなの木の下に立たせ、自分は木のてっぺん近くの幹に止まり、ぶなの木の幹を力いっぱいたたく。
コーン……。澄んだおとがぶなの森じゅうに広がる。
はりねずみの開いたお店は『ぽけっとや』
いろんな木の、いろんな形の葉っぱをポケットにつくりかえて、ズボンにでも、上着にでも、背中にでも、どこでもちくちくと縫いつけてもらえる。
森のなかまたちの間でブームになったぽけっと。
気むずかしいクマの紳士もぽけっとをつけてもらうが、りすや、たぬきの子たちから口々に『何が入ってるの?』と聞かれてうろたえる。
家に帰ったクマの紳士。子どもたちの声がたくさん入ったようなぽけっとをおさえて、ひと言つぶやく。
「ぽけっと……ってのはいいもんだ」
ぎんめっきごみぐもは、銀色のあみに、金色の糸で伝言板を書く。やってきたお客さんは、くさがめ。くさがめがお願いした伝言は、ともだちにあてた《ごめんね》のことば。
青く高い春の空のまんなかで、くさがめのきもちがふるふるゆれている。
たぬきが開いたお店は『おみくじや』
森の広場のくすの木のみきのあなぼこに、拾い集めた木の葉をたくさん投げ込み、黄緑色は《幸福》深緑は《幸運》丸いのは《幸せ》だという。
すると、なぜか動物たちはふくれっつら。
《大凶》や《不幸つづき》がないとありがたみがないじゃないかと。
「みんな、幸福や幸運がほしいんじゃないのかなあ」と、たぬきは首をかしげる。
あおぎりの木の下で、『空のおふねのりば』のかんばんを出したのは、かみきりむし。
お客さんたちは、強い風がやってきたら、あおぎりの葉っぱのふねで、ひゅんと空をひとっ飛び。
丘のむこうのすすきの野原へと行けるのだ。
「おとや」も「ぽけっとや」も続編が収録されている。
全く知らなかったが、この作品は、小学三年生の教科書に載っているのだとか。
優しくて、夢があり、なんともほっこりした気持ちに包まれる童話集である。




