本日の一冊 「けんか屋 わたるがゆく!」
「けんか屋 わたるがゆく!」【国土社】
高橋 秀雄・作
夏目 尚吾・絵
勇ましいタイトルのとおりに、相手をにらみつけ、パンチをくらわせるひとりの少年が、表紙から、はみださんばかりに大きく描かれている。
近藤わたるは小学校四年生。
幼いときに母さんを亡くし、父さんと二人暮らしだ。
自動車の営業の仕事をするようになった父さんだが、その成績は思わしくない。
だが、やっと初めて一台契約が取れそうで、今朝はとてもはりきっている。
そんな日に、わたるはクラスメイトのヒロキを鼻血が出るほどぶんなぐってしまう。
理由はヒロキが、クラスで弱い立場のタケトを執拗にいじめていたからだった。
担任の丸山先生は、わたるを職員室に連れて行き、何も理由を聞かずに、今晩、父親といっしょに、ヒロキの家にあやまりに行きなさいと伝える。
実はわたるは、これまでにも何度か、同じことをさせられていた。
たとえ、わたるに非がなくても、殴った相手が年下であったり、身体が小さかったりするものだから、一方的に悪者に決めつけられて、あやまりに行かされる。そして、そのたびごとに、父さんはつきあってくれていたのだった。
けれども、きょうは父さんの特別な日。
笑顔になって帰ってくるであろう父さんに、きょうだけはそんなことをさせたくないとわたるは思う。
わたるは決して乱暴な子どもではない。むしろ、だれよりも優しいのだ。
けれども、理不尽な場面を見たとき。明らかに相手に非があると認めたとき。
むらむらとわきあがってくる衝動を、どうしても言葉では抑えられない。
つい手の方が先に出てしまい、これが「けんか屋」という、ありがたくないあだ名になってしまったのだ。
予想どおり、父さんは、念願の契約がとれ、上機嫌でもどってくる。
丸山先生から連絡があったことは内緒で、わたるたちは、なじみのラーメン屋で祝杯をあげることにする。
だが、そこで……。
わたるのよき理解者である、父さんとラーメン屋の由美さん。
二人の存在が、わたるの心のモヤモヤをふきとばしてくれるのが救いである。
兄弟げんかはもちろんのこと、およそケンカとは無縁の次男が、小学校三年生の頃に、ふだん仲がいいはずの友人と、とっくみあいの大げんかをしたことがある。
お互い、給食も食べず、だれとも口を聞かず、先生に対しても、親に対しても無言を貫いた。
何が原因かは未だに不明。けれど二人は今でも仲よし。男の子とはそんな生き物なんだなとつくづく感じた。




