本日の一冊 「くものちゅいえこ」
「くものちゅいえこ」【PHP研究所】
森川 成美・作
佐竹 美保・絵
この世で大嫌いなもの。
ひとつだけあげるとしたら、私の場合、それは蜘蛛。蜘蛛は益虫であるし、一生懸命に生きているんだから、その命は尊重しなければと頭では思うのだが、いざ遭遇してみると、もうだめ。身体がかたまってしまう。だから、人の手を借りるなりして、懸命に外に追いだそうとするのだけれど、なぜか蜘蛛というのは、こちらに向かってくる習性があるような気がしてならない。
つい最近も寝室に大きいのが出たので、主人に頼んで追いだし作戦にかかったが、するりと押し入れの中に逃げられてしまい、以来、押し入れは開かずの間になってしまった。
もうすぐ十月になって毛布もいるのにどうしよう……。
そんな私が、ちゅいえこならいてもいいと、この本を借りる気になったのは、ほんとに、ほんとに、挿絵が可愛いからだ。
くものちゅいえこは、小さなくもの女の子。
古道具やに置かれている扇風機の中で暮らしている。
風をふかせるだけあって、さっぱりと風通しのよい性格の扇風機は、ちゅいえこと仲よし。
ちゅいえこは、扇風機の羽根と羽根の間に糸をくっつけてあみをはり、そのあみのあいだにも、あみ、そのあいだにも、またあみと、どんどん目を細かくしていき、ついに扇風機の内側いっぱいにあみをひろげた。自分のお城気分でいたちゅいえこだったが、ある日、動かない扇風機は、インテリアとしてもらわれていってしまった。
自分の大事なお城をなくし、次のすみかをさがしていたちゅいえこは、鍵をなくして動かなくなってしまった置き時計に出会う。
扇風機みたいに親切ではなかったが、なんとか入り込んで、そこで暮らし始めたちゅいえこ。
でも時が止まったままの置き時計の話すことといえば、「前のことばかり」だった。
「前のこと」には希望がない。いちど聞けば、あとは延々と同じことのくりかえしになってしまう。
時間が止まったままなんだから、それは仕方ないとあきらめる置き時計。
そんなある日、ちゅいえこは置き時計の奧の深いみぞの中に、茶色い細長い袋を見つけた。
もし、これが大切なものだったら……。気になって仕方のないちゅいえこ。
ちゅいえこは、その袋の存在を古道具やの店主に知らせようと、糸をのばしつづけるが……。
そのとちゅうには、ちゅいえこの命を狙う天敵の大蜘蛛もいる。
「こわいけど、あたしはやるんだ」
置き時計を放っておけないちゅいえこのがんばりに、思わず、エールを送りたくなる。
そして、ついに……。
本を閉じ終わって、視線は開かずの押し入れに。ああ、もうどうしよう。ヘルプ・ミー!




