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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「彼岸花はきつねのかんざし」

「彼岸花はきつねのかんざし」【学研】

             朽木 祥・作

           ささめや ゆき・絵


 ご先祖様たちの帰る道を赤く照らすように咲きほこる彼岸花。

 毎年この時期、遅れることなくきちんと花を咲かせる律儀さに、いつも感心してしまう。

 以前に児童書で読んだこの本が、赤い彼岸花と可愛らしい子ぎつねの表紙の絵本として出ていたので、迷わず本棚に入れることにした。


 也子かのこのおばあちゃんは、おきつねさまのことをよく話してくれる。

 おきつねさまは人を化かす。

 おばあちゃんもおかあさんも子どものころ、竹やぶに入るとよく化かされたらしい。

 ひとりで竹やぶに入らないよう、さんざんに注意されていた也子だが、ある日、たまたまひとりきりになったとき、一匹の子ぎつねと出会う。

「あんた、おばあちゃんのいうとった、あのおきつねさん?」

「あたしは、まだ、おきつねさんとは、とうていいえない」

 そう答えながらも、子ぎつねは也子にたずねる。

「あんた、あたしに化かされたい?」

 おっかなびっくり、子ぎつねと友だちになった也子だったが、子ぎつねは、まだ本当に幼くて、無邪気そのもの。也子と鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、一緒に遊ぶことが、楽しくて楽しくてたまらない。そんな子ぎつねが可愛らしくて、也子もうれしくてうれしくてしかたない。

 ある日、子ぎつねは、一生懸命な表情で、也子に問いかけた。

「あんた、あたしに化かされたい? あたし、わりとじょうずなんだよ」

 そしてさらに続ける。

「大きな栗も、あまい柿もあげるよ。花はどう? あたしはくびかざりにできるような花が好き」

 そこで、いろいろ考えた末に、也子はわざとむずかしい注文を出した。

「白い彼岸花がいいな。花嫁さんのかんざしみたいな」

 季節はずれで、おまけにめったに見つけることのできない白い彼岸花。けれど、子ぎつねは町の近くの丘に行けばあるというのだ。

「こんども、こんども、また、こんどもね」

 そう約束しあって、也子と子ぎつねは別れる。


 けれども……。

 まもなく、広島の町に投下された原子爆弾。

 也子もしばらくの間、寝ついた。

 その間、夢の中ではくりかえし、赤い彼岸花とすうっと色が抜けて白くなった彼岸花、そして子ぎつねが出てきた。

 ようやく起きあがれるようになって、おばあちゃんから聞いた話は、こんまいきつねが竹やぶの中でだれかをさがしていたということ。そして彼岸のころ、竹やぶに白い花束が置かれていたということ。

 也子は竹やぶに急ぐ。そこにはすすきでくくって、すっかり枯れ果てた彼岸花が置かれてあった。


 町へ行った子ぎつねは、原爆の毒をもらってしまったのか。

 それきり、也子の目の前に現れることはなかった。

 枯れ果てた花束の前で、也子は思う。


 きつね、彼岸花なんか、いらない。

 わたしは、あんたに化かされたい、って言えばよかったよ。


 一発の爆弾により、絶たれてしまった多くの絆。

 戦争がもたらした深い悲しみを、小さな子どもにもわかるように描いた朽木氏と、ささめや氏の名作である。


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