本日の一冊 「万国菓子舗 お気に召すまま」
「万国菓子舗 お気に召すまま」【マイナビ出版ファン文庫】
溝口 智子・作
スイーツには不思議な力がある。
たらふくご飯を食べた後でも、美味しそうなスイーツを見れば、またたくうちに満腹感は消え失せ、別腹の虫がさわぎはじめる。
通りがかりにスイーツのお店を見かけると、ダイエットしなきゃという意志とは無関係に、足が中へと向かってしまう。
もし、そこで売られるスイーツが和洋問わずになんでもあって、しかも絶品の味ぞろいだったら?
なおかつ、その店主が、若くてものすごいイケメンだとしたら?
それはもう、一も二もなくその店のファンになってしまうにちがいない。
本書は、読むだけで、スイーツの美味しさを満喫できる物語。
スイーツにまつわる小さなお話が、色とりどりのこんぺいとうのように、たくさんちりばめられている。
その店の名は「万国菓子舗お気に召すまま」。
九州、博多の天神に近い場所にある。
ギリシア彫刻のように端正な顔立ちの店主、荘介の菓子作りの腕は折り紙付きで、どんな菓子の注文であろうと引き受ける。
アシスタントの久美は、幼い頃から憧れだったこの店で働く夢が叶い、今や、店の仕事に心血を注ぐ二十二歳だ。
長崎市出身の春田が、桃の節句祝いに注文する「桃カステラ」
自信をなくしかけた女子高校生、相良ひかるに荘介が手ほどきしながら、いっしょに作りあげる 「蓬と桜のロールケーキ」
若くして夫を亡くした女性、城戸麻美が、夫とともに食べる約束をしていた三つの「サバラン」
荘介のおさななじみの八百屋店主、安西由岐絵の息子の離乳食からヒントを得てこしらえた、「幽霊飴」
日々、さまざまなスイーツの注文が届き、そのたびに荘介は目を輝かせて試作に挑み、驚異的な胃袋の久美は試食に励む。
五月のある日、いちご大福の注文を荘介に伝えた久美は、めずらしく荘介が乗り気でないことに気づく。
そこからだんだんと明らかにされる荘介の隠された過去。
次から次へと味わえるスイーツの甘さにうっとりとしながら、読者はふっと荘介の悲しい過去の記憶にひきずられていく。
荘介の過去に、いったい何があったのか。
そのトラウマを乗りこえることができるのか。
荘介の気持ちに寄り添う久美の気持ちが、なんて優しく清々しいことか。
本書は「小説家になろう・お仕事小説コンテスト」のグランプリを受賞した溝口智子氏の作品。
一巻読み終えてもまだまだ物足りない読者のために、二巻三巻と続いている。
生粋の博多っ子、久美の博多弁もなかなか味わい深い。




