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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「リズム」

「リズム」【講談社】

        森 絵都・作


 十四歳から十五歳にかけて、むしょうにイライラする一時期があった。

 すべてをぶつける場所が日記しかなかったから、今でもその日記を読みかえせば、そのときの気持ちがありありと思い出される。

 周囲から感じる束縛感。

 心を解き放てない閉塞感。

 まわりと自分をくらべての焦燥感。

 いろんな思いがふくらんで、自分で自分の気持ちをもてあましていた。

 そんな時期に、もし、この本と巡り会っていたら、きっと私にとっての生涯のバイブルになっていたかもしれない。

 二十代後半になってやっと巡り会えた本書だが、それでも、作者のみずみずしい感性は私をとりこにしたし、本書の続編とならんで、ぜひ本棚に入れておきたいと思う。


 主人公藤井さゆきは、中学一年生。

 両親、二つ年上の姉と四人家族。

 そして、もうひとつの我が家ともいうべき親戚の藤井家があって、そこには年の離れた高志と真治の兄弟がいた。

 さゆきにとって、幼い頃から慣れ親しんだ真治たち一家の存在は今でも大切な宝ものだった。


 猛勉強の末に有名大学に入学した高志と、高校受験をすっぽかして、自分の夢に走る真治。

 髪を金色に染め、ロックバンドに熱中する真治に周囲の目は厳しい。

 けれども、そんな真治を心から理解し、応援しているのは、さゆきともうひとり、泣き虫のテツこと、おさななじみの安田てつやだった。


 まもなく、真治の両親が離婚することになる。

 そして、さゆきが心から慕う真治もまた、夢を追って上京するという。

 自分が愛してやまないものが、離れていく淋しさとつらさ。

 落ちこむさゆきを支えようとしてくれるのは、意外にも泣き虫のテツ。

 さゆきを守るためにも強くなる約束を、真治と交わしたのだという。

 そして、出発前、真治はさゆきに、自分が大切にしているドラムスティックを渡し、こう言うのだった。


「まわりの雑音が気になって……親とか、教師とか、友達とかの声が気になって、自分の思うように動いたり笑ったりできなくなったら、そのときはこのスティックでリズムをとってみな。さゆきにはさゆきだけのリズムがあるんだから。

 それを大切にしてれば、まわりがどんなに変わっても、さゆきはさゆきのままでいられるかもしれない」


 今でさえ、このフレーズは、じんと心にひびく。

 年を重ねるほどに、周囲は変わる。辛いこともたくさんある。思わず引きずられそうになる。

 けれども、自分自身の確かなリズムをもっていれば、それは、必ず自分を守る大きな宝になる。

 そう信じたいと願う。


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