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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「おばあちゃんのおにぎり」

「おばあちゃんのおにぎり」【くもん出版】

             さだ まさし・作

             東 菜奈・え


 さだまさし氏の生み出す歌詞は、抒情的で心惹かれるものが多い。彼はまた、児童文学作品も数作手がけて受賞もしている。

 そのうちのひとつ。自伝小説「おばあちゃんのおにぎり」を紹介してみたい。


 ぼくのおばあちゃんは、ロシアに五十年住み、「くすり売りのしごと」をする一方で砂金をほって集めていた。ゆびわやネックレスの材料になる砂金は、袋いっぱい集めると、相当の金額になるらしく、ぶぞくと呼ばれる盗賊の一味に狙われることも多かったそうだ。

 実際、おばあちゃんもぶぞくに襲われたが、機転のきいた受け答えで、ぶぞくの親分を圧倒させ被害はほとんど被らなかったという。

 そんなパワフルで、お話上手なおばあちゃんのことが、ぼくは大好きだった。


 そんなおばあちゃんが、ぼくの誕生日に、大好きなものを用意してくれるという。

 期待して待っていたぼくの前にあったのは、ごくふだんから食べ慣れているおにぎりだった。

 のりも巻かず、具もなく、ただ塩だけで味付けされたシンプルなまっ白なおにぎり。それは誕生会のいろいろなごちそうの中で、だれにも手をつけられないまま残ってしまっていた。


―きょうはたんじょうびなんだよ。とくべつな日なんだよ。こんなおにぎり、まいにちだって作ってくれるじゃない。

 ぼくの心はおだやかでない。

 おばあちゃんにだまされたような気持ちの一方で、おばあちゃんのまごころを傷つけてしまった自分が許せないのだ。

 おにぎりをこわしながら、ひとりお茶漬けをしているおばあちゃんに向かって、ぼくはごめんねと泣きながら、両方の手でおにぎりをつかんで口に入れようとする。

「いいの。いいの。きょうはごちそうがいっぱいあったんだからね。ちっともむりをしなくていいんだよ」

 おばあちゃんは怒るどころか、優しく頭をなでてくれるのだ。


 実は、私にも同じような思い出がある。

 九歳のお誕生日だった。

 祖母が「プレゼントよ」といって差し出してくれたのは、アケビのツルや、ツバキの実、松ぼっくりで丁寧に編んでくれたリースだった。まだまだぬいぐるみや可愛い洋服にしか興味を示さなかった当時の幼ない自分にとって、口では「ありがとう」と言ったものの、それは「なあんだ」としか思えないものだったのだ。

 祖母は、ひとりで山に材料を取りに行って、いっしょうけんめいに作ってくれたのにちがいない。せっかくのまごころに、申し訳ないことをしたと半世紀近く忘れられない思い出である。


 失ってみてはじめて気づかされるまごころのありがたさ。

 しみじみと教えてくれる物語だ。


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