本日の一冊 「機関車先生」
暑中お見舞い申し上げます。
仕事の都合でしばらく本棚をお休みしてしまいましたが、また、ぼちぼち再開いたします。
暑さを忘れてしまうようなお気に入りの本を、もし本棚から見つけていただけたら幸いです。
それでは、ごゆるりとお立ち寄りくださいね。
「機関車先生」【集英社】
伊集院 静作
かれこれ十五年以上前になるかもしれない。
同じ同人誌に属する先輩作家が、良い本だったからとわざわざ送ってきて下さった本だ。
坂口憲二主演で、映画化もされたからご覧になった方も多いかもしれない。
映画もいいが、文字を追いつつ、瀬戸内海に浮かぶ、葉名島という、美しい小さな島と、そこで暮らしている島の人々たちに思いをはせながら、読み進めていく楽しさは格別だった。
十五年ぶりにページをめくって、再び葉名島を訪れてみた。
葉名島で、ただひとつの小学校。水見色小学校。
そこに通う、ヨウこと丘野洋子、修平こと西本修平、妙子こと井口妙子たちは、新しい先生を迎えることになった。
前任の先生の病気がおもわしくなく、校長の佐古周一郎が、教育委員会にたのみこんで来てもらった代用教員である。
その先生の名前は、吉岡誠吾。
機関車のように大きく、みるからに力持ちのような身体つきであるのに、幼い頃の病気が原因で言葉を発することができない。
そんな先生に子どもたちはあだ名をつけた。
「身体が大きく、口をきかんから、機関車先生」
たしかに口はきけないが、機関車先生のおおらかさと優しさは、大地に水が染みこむように、子どもたちの心をじわじわと潤していく。
機関車先生が大好きで、ほのかな恋心をいだくヨウ。
けれども、そんな機関車先生に一部の大人の目は冷たい。とりわけ網元の美作重太郎は、誠吾を目の敵にして、島から追いだそうと、若い漁師たちを利用したりもするのだった。
まもなく島で起こった漁船の事故。修平の父親が亡くなってしまう。網元の思惑がからんでいるという噂もあるが、核とした証拠もないまま、修平は悲しみにくれる。そんな修平の肩をだきながら、話せない自分がもどかしくてならない誠吾。
小さな島であるがゆえに、「島国根性」がみえかくれしてくる。そこに住む者にとっては、自分の運命が脅かされかねないしがらみがつきまとっているのだ。
閉鎖的な島の中で、ひときわ清々しい気持ちでものごとを見つめ、子供たちを愛する機関車先生。
人間の真の強さとはなにか?
信じることとはなにか?
機関車先生の大きな身体から、ひしひしと伝わってくる、いくつかの問いかけ。
作品中の漢字にはすべてルビがふってあり、小学校高学年からでも読める。
大人も、じっくりと小説を味わいたいときには、お薦めの一冊だ。




