表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁の本棚  作者: 雪縁
154/306

本日の一冊 「機関車先生」

暑中お見舞い申し上げます。

仕事の都合でしばらく本棚をお休みしてしまいましたが、また、ぼちぼち再開いたします。

暑さを忘れてしまうようなお気に入りの本を、もし本棚から見つけていただけたら幸いです。

それでは、ごゆるりとお立ち寄りくださいね。


「機関車先生」【集英社】

          伊集院 静作


 かれこれ十五年以上前になるかもしれない。

 同じ同人誌に属する先輩作家が、良い本だったからとわざわざ送ってきて下さった本だ。

 坂口憲二主演で、映画化もされたからご覧になった方も多いかもしれない。

 映画もいいが、文字を追いつつ、瀬戸内海に浮かぶ、葉名島という、美しい小さな島と、そこで暮らしている島の人々たちに思いをはせながら、読み進めていく楽しさは格別だった。

 十五年ぶりにページをめくって、再び葉名島を訪れてみた。


 葉名島で、ただひとつの小学校。水見色小学校。

 そこに通う、ヨウこと丘野洋子、修平こと西本修平、妙子こと井口妙子たちは、新しい先生を迎えることになった。

 前任の先生の病気がおもわしくなく、校長の佐古周一郎が、教育委員会にたのみこんで来てもらった代用教員である。

 その先生の名前は、吉岡誠吾。

 機関車のように大きく、みるからに力持ちのような身体つきであるのに、幼い頃の病気が原因で言葉を発することができない。

 そんな先生に子どもたちはあだ名をつけた。

「身体が大きく、口をきかんから、機関車先生」

 たしかに口はきけないが、機関車先生のおおらかさと優しさは、大地に水が染みこむように、子どもたちの心をじわじわと潤していく。

 機関車先生が大好きで、ほのかな恋心をいだくヨウ。

 けれども、そんな機関車先生に一部の大人の目は冷たい。とりわけ網元の美作重太郎は、誠吾を目の敵にして、島から追いだそうと、若い漁師たちを利用したりもするのだった。


 まもなく島で起こった漁船の事故。修平の父親が亡くなってしまう。網元の思惑がからんでいるという噂もあるが、核とした証拠もないまま、修平は悲しみにくれる。そんな修平の肩をだきながら、話せない自分がもどかしくてならない誠吾。


 小さな島であるがゆえに、「島国根性」がみえかくれしてくる。そこに住む者にとっては、自分の運命が脅かされかねないしがらみがつきまとっているのだ。

 閉鎖的な島の中で、ひときわ清々しい気持ちでものごとを見つめ、子供たちを愛する機関車先生。

 人間の真の強さとはなにか?

 信じることとはなにか?

 機関車先生の大きな身体から、ひしひしと伝わってくる、いくつかの問いかけ。


 作品中の漢字にはすべてルビがふってあり、小学校高学年からでも読める。

 大人も、じっくりと小説を味わいたいときには、お薦めの一冊だ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ