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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「おじいちゃんのゴーストフレンド」

 「おじいちゃんのゴーストフレンド」【コウセイ】

          安東 きみえ作

          杉田比呂美 絵


私の祖母は、亡くなる数年前から認知症となり施設のお世話になっていた。

 そのころは、一ヶ月に一度、夫と、長男と、まだ赤ちゃんの次男を連れて、必ず祖母のもとを訪れていた。

 お正月は、入所者を家族が連れ帰ることになっていたのだが、実母が闘病中だったため、祖母だけは施設に残らざるをえない。が、祖母はけろりとした顔で、私たちに向かって、明るくこう言うのだった。

「寄宿舎のお友だちはね、お正月だから、みんな帰省するらしいのよ」

 当時にしては、女学校卒の肩書きをもつハイカラな祖母だったが、なんと、今、自分は女学生で寄宿舎で暮らしているのだという。

 見舞っているわたしと夫は、孫ではなくて、いとこなのだと介護士に紹介していた。

 自分が生きてきた人生の中で、いちばん楽しかった時代を、祖母は、夢うつつで生きているのだと思った。


 本書は、てっちゃんの友だちであるぼくの視点から、てっちゃんの難病におかされているおじいちゃんと、てっちゃんとのかかわり、ヘルパーの黒井さんとおじいちゃんとのかかわり、そしてぼくとてっちゃんとの友情をていねいに描いた作品である。


 てっちゃんの家にやってきたおじいちゃんは、難病のために服用している薬の副作用で幻が見えてしまうことがある。

 友だちのふうさんの葬儀に行ってからというもの、おじいちゃんはたびたび、ふうさんが来ているといっては話しかけている。

「もういないんですよ。その人は。いるはずがないんです」

 ぴしりと言って聞かせようとする黒井さん。

 けれども、てっちゃんはあくまでも、おじいちゃんのゴーストフレンドを守ろうとする。

「おじいちゃんの中では、ふうさんは死んでないんだよ。だからいいんだ。やさしい友だちがいて、そしてときどき会いにきてくれて。それでいいんだよ」


 非情な感じともとれる黒井さんだが、それなりにおじいちゃんのことを考えてくれているのだ。

「いくら年をとったって未来はあるのよ。ちゃんと今を生きて、目の前にあるものを見てほしいの。まぼろしなんかに気を取られてちゃ、もったいないじゃない」

 どっちなんだろう。

 どっちがおじいちゃんにとって幸せなんだろう。

 ぼくにはこたえが出せない。


 その後、おじいちゃんは亡くなるのだが、悲しみをこらえて、おじいちゃんの形見の品を思い出の場所に埋めようとするてっちゃんに、だまって寄り添うぼくの優しさに胸がつまる。


 老いに寄り添う者の温かさをしみじみと感じる児童書だ。


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