本日の一冊 「鉄道員(ぽっぽや)」
「鉄道員」【集英社文庫】
浅田 次郎作
直木賞受賞作品であるし、映画化もされたので、きっと長編なんだろうなと思っていたら、意外や意外。とても短い物語だった。この長さで映画化できるとは、きっと奧が深いんだろうなと予想したら、案の定。心に残る一冊となった。
物語の舞台は北海道。すでに近々廃線が決まったローカル線を最後まで守り抜く駅長が出会った奇跡をファンタジー仕立てで描く。
幌舞駅長の佐藤乙松は、雨の日も雪の日も、娘を亡くした日も、妻を亡くした日も駅に立ち続けた。仕事一途の不器用な男だったのだ。
正月の夜、駅にいた小さな女の子が忘れたらしいセルロイドの人形を、夜もふけたころにその子の姉だと名乗る子が取りに来た。そして翌日は、また姉であるという女子高校生がやってきて、乙松のために夕食を作り、いっしょに食べようと配膳までしてくれる。乙松は亡き妻や娘、ユッコの面影を見て不思議な気持ちになるが、娘は、実は自分はユッコであると告げるのだ。
次の朝、乙松はホームの端の雪だまりに倒れて亡くなっていた。手には手旗をにぎり、口には警笛をくわえて……。
「おとうは、おめえが死んだときも、ホームの雪はねてただぞ。この机で、日報書いてただぞ。
本日、異常なしって」
「そりゃおとうさん、ポッポヤだもん。仕方ないっしょ。そったらこと、あたしなあんとも思ってないよ」
この作品で交わされる会話の素晴らしさ。
方言が独特の味をかもしだし、ファンタジーの世界に、よりリアルさを醸し出している。
本書は、他にも七編の短編が収録されている。
「うらぼんえ」は心に残る作品だった。
そしてさらにもうひとつ。浅田次郎という作家の魅力を、存分に伝えてくれる作品と巡り合うことができた。
後日に紹介をしてみたい。




