本日の一冊 「くれよんのくろくん」
「くれよんのくろくん」【童心社】
なかや みわ作・絵
「くろ」という色に目覚めたのはいつごろだろう。
幼いころは、とにかく赤。
中学、高校生では、紺かブルー。
学生時代の前半はピンク……と思い出しながら、そうそう、二十代前半にやたら「くろ」を選んだなという記憶がよみがえる。
それまで「くろ」にはネガティブな印象しかなかったのだが、身に付けると、すごく大人っぽくなったような、ミステリアスな自分に変わったようで嬉しかった。実際、周囲の友だちも、ピンクばかり着ていたわたしが、なぜ、とつぜんイメージチェンジしたのだろうかとうわさにしていたらしい。
さて、この絵本。
クレヨンの箱に収まっていた十色のクレヨン。
ある日、とつぜん、きいろくんが飛び出し、まっしろな画用紙にちょうちょを描く。
ちょうちょに必要なのはお花。きいろくんはあかさんとピンクちゃんをよんでくる。
「お花には葉っぱがひつようよ」
みどりくんときみどりさんがよばれる。
「じめんがいるし、木もうえなくっちゃ」
ちゃいろくんとおうどいろくんがやってくる。
「そうだ! あおぞらとくもをうかべなきゃ」
あおくんとみずいろくんもかけつける。
「ぼくらのえができた、できた」
おおよろこびのクレヨンたち。
だけど……。
「ねえ、ぼくは? ぼくはどこを描けばいいの?」
とまどい気味のくろくんに向かって、
「くろくんはまにあってるよ」
「きれいにかいたえを、くろくされたらたまらないよ」
みんなは、くろくんを仲間はずれにしてしまう。
くろくんをのけものにしたまま、それぞれのお絵かきにむちゅうなクレヨンたち。けれどもだんだん、絵がめちゃくちゃになって、けんかが起こる。
そのとき、シャーペンのおにいさんが、こっそりくろくんにささやく。
びっくりしたくろくんだが、まよわず、みんなの描いた絵を、ぜんぶぬりつぶしてしまう……。
そんなことしてだいじょうぶ? くろくん?
でもご安心あれ。
だれもが、くろくんを見直してくれるのだ。
その理由は、ぜひ絵本で。
なかや みわさんの絵は、「そらまめくん」シリーズとならんで、とても人気がある。
その絵のかわいらしさに、大人も子どもも思わず惹きつけられてしまうらしい。
「くろ」という色はすべての色を吸収・遮断する色。
周囲の色を引き締めて目立たせる効果をもつ。
ポジティブなイメージだと「高級」「神秘」「自信」「威厳」多少重いけれど、存在感のある色だ。
けれども、若いころの「くろ」と、今の年齢での「くろ」は、やっぱり見た目が違いそうな気がする。
「くろ」くんと上手におつきあいしたいと思うこのごろだ。




