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縁の本棚  作者: 雪縁
144/306

本日の一冊 「うっかりの玉」

今朝の地震の被害に見舞われた方々に心より御見舞申し上げます。

いつ、なんどき、どこで地震は起こるかわかりませんが、これ以上の被害が出ませんことを祈っております。

「うっかりの玉」【講談社】

         大久保 雨咲・作

         陣崎 草子・絵

 

 もっか、「玉」をモチーフに創作をしているので、迷わずこの短編集を図書館から借りてきた。

 表題作「うっかりの玉」のほかに、ほんわかした不思議な短編が五編収まっている。


「うっかりの玉」では……。

 ひとりのばあさまが、階段を降りて台所の前まで来たときにふと立ち止まった。

「はて? わたしはなにをしにきたんだろう?」

 すると階段に小さな女の子がちょこんとすわっている。

 青い着物を着て、露草のように愛らしいその子は、手にしたこがね色の玉を見せて、

「これはわたしのうっかりの玉よ。落とすくらいだもの。どうせ、大したものじゃないわ」

 そういう。どうやら、ばあさまがうっかり忘れてしまったものが玉になって女の子の手にわたってしまったみたいだ。

 女の子は左右のたもとから、色ちがいの玉をいくつか取り出し、お手玉をはじめる。

「さぶろーおじちゃんのうっかりのたま~」

「つきこおばちゃんのうっかりのたま~」

 すると、つきこおばちゃんの玉がふっと消えてなくなる。どうやら、そのうっかりを思い出すことができたらしい。

 さぶろーおじちゃんのうっかりの玉は家じゅうにあふれかえるほど転がっているのだそうな。

 なかなか思い出さないから、玉は増えていく一方らしい。

 さあ、ばあさまは、女の子の手から、うっかりの玉を消すことが出来るか否か。


 もう一作。

「ばなあーんなの話」

 八百屋さんの店先に山積みになった食べ頃のバナナ。

 その一本だけを売ってもらったおばあさんが、「ばなあーんな、ばなあーんな」とひとりごとを繰り返しているうちに、はいっと声がして、バナナと会話しはじめた。

 バナナの黒い点々をさわると温かいのでそう言うと、「おばあさんの顔にも、黒い素敵なものがたくさんありますよ。さわってごらんなさい」とぬけっとしたこたえ。

 嫌味なバナナ! どうせこれはシミだわよ。

 けれどもバナナが言うとおり、そのシミにそっと指を当てると、あら不思議!

 懐かしい風景が手にした手鏡に、次々にあらわれては消えていく。

「それはぜんぶ、おばあさんのものですからね」

 優しく話すバナナ。大嫌いなシミも、そのひとつひとつがおばあさんの人生だという。

 

 ところで。

「うっかりの玉」わたしも日々こしらえている気がする。

 けれど思い出せるから、まだコレクションには至っていないはずだ。

 ふっと喜寿に近い先輩作家を思った。

 もしかしたら、さぶろーおじさんと同じで、家中、うっかりの玉だらけかもしれないなあ……。


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