本日の一冊 「黒グルミのからのなかに」
「黒グルミのからのなかに」
ミュリエル・マンゴー作
カルメン・セゴビア絵
とき ありえ訳
巨大な黒い鎌をもち、ひとりたたずむ少年が描かれている表紙絵。それだけでなんだか、絵本の世界に入っていくのがこわいような雰囲気がただよう。
漁師村の近くの小さな家に、ポールという男の子がかあさんと二人で暮らしていた。
ある朝、胸さわぎを感じて目覚めたポール。
かあさんがベッドによこたわって目をとじている。まもなく死神が自分を連れにやってくるのだというのだ。
いてもたってもいられず、家を飛び出したポールが浜辺を歩いていると、ひとりの老婆に呼び止められこれから行くという家をたずねられた。
黒いマントに身を包み、黒いフードをすっぽりとかぶった老婆。背中には大きな鎌を背負っている。風でちらりと見えた顔は、なんともおそろしい。これが、まぎれもなく死神だとわかるやいなや、ポールは死神にとびかかっていく。
鎌をうばいとり、石でその刃をめったうちにし、鎌の柄で、死神をたたいて、たたいてたたいた。
そうして小さくなった死神を、足元にあった大きな黒グルミのからの中のおくのおくにおしこみ、小枝をさして穴をふさいで閉じこめ、海に向かって思いきり投げ捨てたのだった。刃のこぼれた鎌を家に隠し、台所にもどると、かあさんが起きあがって、元気に食事の支度をしていた。
死神はかあさんから離れてくれたのだ。
ホッとしたのもつかのま、ポールのまわりで、次々に奇妙なことが起き始める。
たまごがわれない。野菜を土から引き抜くことができない。漁師村の魚が一匹も釣れない。子ウシが逃げてしまい、ひときれも売る肉がない。麦が鎌にかからない。
この世からすべて「死」が消えてしまったのである。それはすなわち、死神を封じ込めたポールの責任だった。
かあさんはポールに言ってきかせる。
「あなたは、生きているものがもつ、ただひとつのおきてをないものにしてしまったのよ。必ず死神を見つけ出して、黒グルミのからから出さなきゃ。すべてを、自然のながれにもどすためにね」
「そんなことしたら、死神がまた、かあさんを!」
「いいこと? すべての命にはおわりがあるの。あなたはそれをみとめずにこの世をおかしくしてしまった。わたしのことを思ってくれるのなら死神をさがしにいくのよ。どうかそうして!」
胸が痛むようなポールとかあさんの会話。
ポールは、黒グルミのからをさがしに出かけるのだが、果たして死神は見つかるのだろうか。
そしてかあさんの命は……。
生があって死がある。それはどうしようもないこの世の摂理。頭ではわかっているつもりでも、受け入れるのは、なんとむずかしいことだろう。
ましてや、ポールのように幼い立場で、最愛のかあさんを連れて行かれるのだとしたら……。
最後の頁。だれもが安堵してうなずける結末だった。
読後感は不思議と悪くない。




