本日の一冊 「そうじきのつゆやすみ」
「そうじきのつゆやすみ」【PHP研究所】
村上 しいこ・さく
長谷川 義文・え
たとえ、はしくれでも、児童文学を書いているものとして、常に心がけていることがある。
私にとってそれは、物語が「わかりやすく」「新鮮な発想」であることだ。
魔法使いを書こうが、妖精を書こうが何でも構わないけれど、それらはかなり使い古された題材なので、 自分なりのオリジナリティを出すのはとても大変だ。だから、あまりみんなが考えつかないような題材で……(とはいえ、奇をてらいすぎるのも考えものだが)とにかく、面白い!と感じてくれるようなものが書けたらと思っている。
その点では、この作家の作品にはいつも感心させられる。グレードはだいたい小学校一年生から三年生くらいまで。タイトルを聞くなり、
「つゆのなかやすみってきいたことあるけど、つゆやすみなんて、きいたことありません」
作品中のおかあさんのセリフがそっくりそのまま出てきそうだ。しかも、そうじきのつゆやすみなんて。
雨があがった、ある土曜日のこと。
そうじをしようとしたけんいちのおかあさんがさけぶ。
「あっ! なんや、これ。けんいちか? こんないたずら」
みると、そうじきのゴミパックの中に、魚つりに使うはりや、うきがたくさん入っている。
けんいちが否定して、それをとろうとすると、「アカン!」のひと言。見ると、手も足もはえたそうじきが大きな目でにらんでいる。
どうやら、そうじきは梅雨の合間にさかなつりに行きたいらしい。
そこで、けんいち一家は、そうじきのひでじいさんとともにつり公園へ。
ひでじいさんは、そうじきなのにつりが上手い。
メゴチやヒイラギやキスを次々に釣り上げる。と、とつぜん、けんいちの背中にタコが……。
通りかかったいじめっこのしわざだった。
釣りボートで逃げるいじめっこを、海の上を走るひでじいさんに乗って追いかけるけんいち。
そのとき、子ダコをさがすオオダコが出現。
海に放り出されたいじめっこを救い、けんいちとの仲をとりもつひでじいさん。
その後、みんなで、焼きたての魚をおかずに、楽しくおにぎりを食べる。
その夜。
ひでじいさんの調子がおかしい。
「けほっ、けほっ」と変なせき。
果たしてひでじいさん、だいじょうぶだろうか。
ひでじいさんのことばで、心に残るひと言があった。
「たのしいことのつぎは、いやなことが。いやなことのつぎには、たのしいことがまってるんです」
人生はこのくりかえし。
たったひと言を、児童書でさらりと書いてのける、村上しいこ氏はそんな作家だ。




