本日の一冊 「歯いしゃのチュー先生」
「歯いしゃのチュー先生」【評論社】
ウイリアム・スタイグ 文と絵
うつみ まお 訳
小さいころは、歯医者と聞くだけで身震いしそうなくらいにこわかった。
おそらく、一年生のとき、生まれて初めて受けた歯の治療で、機械で舌をちょっぴり削られてしまったからだと思う。
以来、歯医者は私にとって恐怖の対象となり、病院の前を通るときは小走りで走り抜けるほどだった。
大人になっても、歯医者にかかるのはユウウツでたまらなかったが、とある歯医者の先生に出会ってから、歯医者通いがぜんぜん苦ではなくなったのだ。
K先生と出会ったのは、三度目の転勤の地。
とにかく、とにかく話上手。緊張しているこちらの気持ちを和ませ、笑わせ、それは丁寧に治療してくれる。スタッフの方々も明るく優しかった。先生を信頼できるかできないかで、こうも気持ちが変わるものかとあらためて驚いたものだ。
チュー先生は、だれもがみとめる腕ききの歯医者さん。
モグラやシマリスとか、先生と同じくらいの大きさの患者はいすにすわって診察。
それよりも大きな患者は、床にすわってもらい、先生がはしごにのぼるか、さらに大きな患者は、先生が宙づりになって治療する特別室に案内する。
チュー先生はとにかく手先が器用なので、ドリルをかける痛みもなにも感じさせないほど。
人気のある先生だが、病院の看板にはこう書かれていた。
「ネコやその他、きけんな動物の治療はおことわり」
ベルが鳴るたび、先生とおくさんはまどからのぞき、どんなにおとなしそうでもネコにはご遠慮ねがっていた。
そんなある日のこと。
痛みにたえかねて、一匹のきつねがやってくる。
一度は断ったものの、あまりの痛みに泣きながら歯の治療を懇願するきつね。
かわいそうに思ったチュー先生とおくさんは、きつねを治療室に通すが、恩知らずのきつねは、二匹を食べる夢を見て夢ごこちになる。そして、歯が治ったら、本当に二匹を食べてやろうとこっそりたくらむのだ。
きつねのたくらみをすべておみとおしのチュー先生夫婦。
けれどもやりかけた治療は成し遂げることがモットーである先生は、きつねの治療を終えた上で、身を守る方法を考え出す。さて。その方法とは?
チュー先生と奥さんの息のあった行動と、目を白黒させて帰っていくきつねのすがたがとてもゆかいだ。
身体はちいさいけれど、貫録十分。歯医者としての使命感をわすれないチュー先生のお姿を、ぜひ絵本でごらんください。




