本日の一冊 「みみかきめいじん」
「みみかきめいじん」【講談社】
かがくい ひろし作・絵
みみかき。
この世の中で至福のひととき。
奥様のお膝で、お母さんの膝で、心地よい経験をされた方も多いのではないだろうか。
私自身の経験を問われたら、答えは否! 私の両親は、子どものみみかきが、かなりへたであったと思う。
ならばと、みみかきに関しては早くから独立した雪縁。過去に六人をとろけさせた、自称「みみかき名人」である。
その六人の内訳とは……祖母、母、息子二人、姪二人。
姪たちは中学生くらいまで、会えば真っ先に「おばちゃん、お耳かいてえ」とみみかきをねだってきたし、息子たちは赤ちゃんのころから、お耳ホジホジするとすぐに、すやすやねむってくれたものだ。祖母も母も生前、みみかきされるのをとても喜んでくれたし、母に到っては、「もうおしまい」と言うにもかかわらず、「まだ、まだ」となかなか放してくれずにこまった。
人の耳の中は、鼓膜までストレートに見通せるタイプと、やたら狭くて見えないタイプがあって、後者のタイプをホジホジした後は時々、耳かき棒の先っちょが赤く染まっていることもあったが、ドンマイ、ドンマイで知らん顔をしていた。
さて、絵本の表紙絵。
どっかり座ったみみかき名人のひょ・うーたんせんせいと、その弟子の、小さな小さなひょうすけ。
うーたん先生は、ぷっとまいて、ぷっとまいてぷっぷっぷっとみみかき草を育てている。
そこへやってきた本日のお客さんは、大きな大きなゾウ。「ぞ」の一番のみみかき草をひょうすけに運ばせると、うーたん先生、ゾウの大きな耳をホジホジホジ。すると、あまりの気持ちよさでふにゃらふにゃら、ほえほえほえ~とゾウがとろけてしまった。
次にやってきたのはうさぎの団体さん。
「う」の一番から百番までのみみかき草で、うーたん先生はずらりとねころんだ長いみみをホジホジホジ。
「ええわあ」「ええわあ」
うさぎはたちまちロールケーキみたいにつながってしまった。
お次のお客さん。うーたん先生もひょうすけも思わずきょろきょろ。どうも姿のみえないお客さんらしい。さて、このお客さんの正体は? みみかきはちゃんとできるのだろうか?
みみかきに大切なことは、かいてくれる人への絶対的な信頼感。
いつなんどき、グサッとくるかもしれないと歯をくいしばって身体を縮ませていたら、それは拷問に等しいだろう。
「お耳かいてあげようか?」
優しく誘う雪縁に向かって、
「いいや。けっこうだよ」
きょうもするりとにげる夫。
時おりのドンマイを、そしらぬふりして見破っていたのかもしれない。




