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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「食べるたびに、哀しくって…」

「食べるたびに、哀しくって…」【角川文庫】

           林 真理子作


 食べものには、なにかしら思い出がつきまとう。

 私の場合は、カブの漬け物、祖母の作ってくれた田楽弁当、学生時代のパセリパーティ。

 こういったものがぼんやりと浮かんでくる。


 小六の冬、祖父が亡くなったとき。

 実家の畑は、大きなカブが例年になくたくさん実をつけていた。

 当時の田舎は、隣保班の方々に手伝っていただき、通夜や葬儀後の食事を作っていたから、たくさんのカブは、すぐに漬け物として皆の前に出された。

 白いおにぎりと白いカブ。

 白づくめの献立は寒々として、祖父のいなくなった淋しさをよけいにひしひしと感じたものだった。


 それより少し前。小学四年生のころ。

 母が肝臓を患い、絶対安静の日々が続いた。

 折しも私の遠足があり、祖母がお弁当を作ってくれた。昨夜の残りの田楽をおかずに入れて、新聞紙に包んで手渡してくれたとき、何だかイヤな予感がした。

 そしてその予感は的中。

背中にしょったリュックの中でゆすられたせいで、田楽みそがあたかも●●●の如く、新聞紙にしみ出てしまい、ついに食べずに持ち帰ってしまったのだ。空腹感と悲しさと祖母に対する罪悪感とで本当に忘れられない思い出である。


 学生時代、数人の友人たちと、先輩男性のお宅を訪ねたとき。

 あがれあがれと勧められ、テーブルの上に出されたのは、なんと山盛りのパセリ。

 彼自身が育てたというその青々としたパセリの、ほろ苦くも甘いこと! 

 それはあたかも、厳しくも優しい彼の人柄をあらわしているようにも感じた。

 私たちはまるで草食動物のごとく皿に群がり、いっぱいのパセリをもぐもぐと食べあげてしまった。


 林真理子のこのエッセイも、少女期、青春期そして現代にわたって、食べものとの思い出が、おもしろおかしく、時には切なく、哀しく描かれている。

 叔母が亡くなる前、いっしょに飲んだコーヒー牛乳。

 父親のエゴイズム丸出しの二枚のトンカツ。

 高校時代のアルマイト弁当。

 仲よしの美しい友人に妬みを感じつつも、いっしょに食べたクリームあんみつ等々。


 嬉しさ、哀しさ、時に妬みや、意地悪い気持ち。

 素直に感情を吐露したこれらのエッセイにより、読者は林真理子という作家を、本当に身近に感じることができる。

 私にとって本書は、あまたある林真理子氏の作品群の中で今なお、だんとつトップで好きでお薦めしたい作品なのである。

 

 


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