本日の一冊 「ハのハの小天狗」
「ハのハの小天狗」【ほるぷ出版】
飯野 和好さく・え
「あなたとこのAちゃんとKちゃんは、いつも背中に刀さしてたねえ」
息子たちの小さい頃を知っている方々は、なつかしそうに口を開く。
そうなのだ。
平成の世に生まれ出たはずの二人の兄弟は、まるでタイムマシンにのって昭和の時代からやってきたかのように、ふろしきのマント、おもちゃの刀を背中にさして、いつも二人で走り回っていた。
そんな二人に、おそらく多大な影響を与えたであろうこの絵本。「ハのハの小天狗」を久々にとりだしてみた。
飯野和好氏のくっきりとした、大きな挿絵が実に魅力的。
頁をめくると……。
春も盛りのある日、いい気分でみすずちゃんと学校から帰っていたぼくは、とつぜん忍者の一団に襲われる。
「ハのハの小天狗、みすず姫はもらいうけたぞ」
とっさにぼくの手が腰に行く。
刀のさやを抜いているぼくは、いつのまにか、りっぱな小天狗に変身していた。
みすず姫をかばいながら、
「こいっ」
「ターッ」
あっちへ飛び、こっちへ飛び、手強い忍者たちとの戦いが始まる。
と、ひとりの忍者がみすず姫に斬りかかる。
「小天狗さまっ」
「あっ! 姫」
ところが、姫も負けてはいない。
「えいっ!」
とばかりに刀をふりおろし、忍者を撃退させる。
逃げていく忍者たち。
「まていっ!」
追いかけるハのハの小天狗。
すると岩かげからずいっと現れた忍者の頭が、手裏剣を猛烈な勢いで投げつけ、反撃してきたのだった。
ビュッ ビュッ
カンカン
とおーっ
コーン カチーン
息をのんで、絵本をめくる手をじっと見守っていた息子たちの幼い横顔が目の前に浮かんでくる。
忍者の頭との一騎打ち、とつぜんのけむり玉など、まだまだ頁は続く。
縁版「思い出の絵本」のベスト3を作るとしたら、まちがいなく、「ハのハの小天狗」は殿堂入りであろう。
刀の好きな、小さな男の子がお知り合いにいたら、これはぜひぜひお薦めの絵本である。




