本日の一冊 「あたごの浦」
「あたごの浦」【福音館】
脇 和子 脇 明子・再話
大道 あや・画
気がついたら、読み聞かせをしていた時期からもう十年以上もたっている。
朝のクラスに入り、すでに半円状に座って待っている子どもたちの前に、椅子をおいて座り、まずは朝のごあいさつ。その後、本を取り出し、
「きょうはね、さぬき地方に伝わるお話をしますよ。さぬき地方っていうのはね~」と軽く説明してから、いよいよお話の世界へ。
表紙絵をみせたとたん。
「タイだ!」
「タコだ!」
あちこちからいろんな声が飛んでくる。
扉をめくり、ゆっくり語り始める。
何度も何度も読んでいるから、すでに暗誦している部分もある。
―あるお月さんのきれいな晩のことや。
あたごの浦に、波がざざーっとよせてはかえし、よせてはかえし―
お話の世界がゆっくりと開かれる。
月あかりの美しい浜辺の近くに神社と鳥居が見え、浜辺には大きな松の木がある。
広い海からゆらりゆらりとあらわれてきたのは、大きなタコ。
そこへ鯛まで上がってきた。鯛はタコに提案する。「こんなすばらしい月夜だから、みんなで演芸会をやろう」と。
―おたこはもうおおよろこびで波打ちぎわへ行って、おーけな声で、「おーい。演芸会するぞお」と叫んだやとー
すると沖のあっちこっちから、たくさんの魚たちが波にのって集まってきた。
ひとしきり、歌ったりおどったりを楽しんだあと、とっておきの隠し芸大会となり、鯛やフグやたこやカレイがかわるがわる、みごとな芸を披露するたびに、魚たちはみな、「妙々々々」とはやしたてる。
やがて、お月さんもかたむいてきて、魚たちは海にもどっていった。
―浜はまた静かになって、波がざざーっとよせては返し、よせては返し、沈みかけたお月さんに照らされて、だれもおらん砂浜が、キラキラ、キラキラと光るだけになったんやとー
「これでおしまい」
最後の頁までめくって、パタンと閉じて、裏表紙まで見せる。これは読み聞かせの決まりごと。
「ふうっ……」
かすかに聞こえてくるため息まじりの声。
あたかも夜の浜辺に出かけて、魚たちの演芸会を、いっしょに楽しんできたような満足感が伝わってくる。
そんな心の一体感を味わえた至福の頃をなつかしく思い出した。
本棚に入れるために改めて読み直し、「あたごの浦」はやはりいい絵本だとしみじみ感じた。




